・・アニマルセラピー・カンファレンスにおける講演原稿・・・


《ドッグ トレーナーとしてのアニマルセラピーでの役割》

ヨコスカドッグスクール・JKC横須賀全犬種クラブ 代表  佐藤美津子


★はじめに・・・

YOKOSUKA DOG SCHOOL(以下YDS)は高齢者ホーム・知的障害者施設などの訪問活動を'96年から続けております。
愛犬を同伴した数人の飼い主と行くわけですが、犬達は全て基本訓練以上のトレーニングをしています。
犬の訓練愛好家グループという表現が適していると思います。
まず、活動報告の前に、犬の訓練及び飼い主が愛犬のトレーニングに携わることの意義を述べることに致します。

★犬の訓練とは・・・

「犬の訓練」と聞くと、ほとんどの方が警察犬を思い浮かべるでしょう。
YDSでは、過去の歴史の中には神奈川県警嘱託の指定警察犬として合格した犬もおり
一般家庭の愛犬の預かり訓練もしておりました。

1980年代後半にイギリスのトレーニングクラブを訪問し、多くの飼い主が愛犬と共に指導を受けている光景に
本来犬と暮らしていく上で大切なことが見えたような気がしました。
犬は人間と比べたなら当然成長は早いわけですから、忙しい飼い主は訓練所に預けたり
トレーナーに通ってもらうなどの手段を選ぶことは間違ってはいません。

しかし卒業した後の問題として「訓練士のいうことはきくが、飼い主のいうことはきかない」とよく耳にします。
これは、プロが基本に則って教育した犬は、きちんとした指示により従うようになり、あやふやな指示を出す
飼い主のいうことには従わなくなります。
飼い主の悪い点というのは、例えば「すわれ」を指示した場合、何回も「スワレ」と言ったり
指定された場所ではないところで座ったとしても誉めてしまうことです。
あいまいな指示を繰り返されるうちに、犬は「やればいいんだろう・・・」という学習をしてしまいます。

飼い主は訓練過程を知らないわけですから、犬が指示に従わなくなっても、軌道修正する術がわかりません。
従って、直されなければ犬は許された行動として、次第に正しい「座れ」を忘れていくことになります。
最終的に、飼い主を無視して、指示に従わなくなります。これは、訓練を忘れてしまったということではなく
百も承知でだらしなくなっているということになります。
お利口になった犬を上手にコントロールしていくには、飼い主がよほどの努力をしなければ無理になります。

犬が物事を覚えていく過程を知ったなら、修正する箇所も当然わかるはずです。
従って、労力を惜しまず、飼い主自身が愛犬のトレーニングに取り組む事が、犬を確実に
コントロールできるようになる早道なのです。

★訪問活動における訓練犬の活用・・・

一口に「訓練した犬」と言っても、その内容は様々であったり、能力も当然差があります。
また、訓練が良くできるからといって必ずしも訪問活動に向いているとは限りません。
YDSでトレーニングを重ねているベテラン愛犬家は、訓練競技会出場はもとより、中には
撮影のモデルなど経験をしている犬もいます。
この犬達は、環境が変わった場所でも指示に従い、周囲の環境に惑わされることがほとんどありません。

私は、この訓練された犬達を活かした社会貢献ができるのではないかと思い、訪問活動に取り入れてみることを考えました。
目の前で、犬が人のいうことを理解して指示に従う姿や、かわいい「芸」を見ることで
良い意味でお年寄りの刺激になるのではと思ったからです。

場慣れをしていることと、フレンドリーな性格を共に持ち合わせた犬でなければ訪問活動には本来適していませんが
中にはどんな状況下においても飼い主の指示には従うが、見知らぬ人には心許さないという犬もいます。
このような場合を、どうクリアしていくかも考慮しなければならない点でした。

★メンバー選びの注意点・・・

訪問活動に共鳴して、「参加協力」を申し出て下さる方がいらっしゃいます。
気持ちとしてはありがたいと感謝の念で一杯ですが、無条件でご厚意を受けるわけにはまいりません。
訪問先で万が一にも事故を起こしたなら、私達だけの問題とは片づけられないことになります。
犬を活用して活動している方々全体にご迷惑をおかけすることになるからです。
何事もなく、無事に終了して当たり前というものですから、その都度メンバー選びは一番重要な要素となっています。

トレーニング披露をする犬とふれあいタイムに出演する犬を分けることもあります。
また、後継者を育てる意味でも新人(犬)をリストアップする時があります。
飼い主も当然上がってしまうということもありますし、犬もどのような反応をするか見え
ない面がありますから、出番は少なくして精神的に楽になるようにします。
最初の印象がよくない場合には、その後の協力が得にくくなることもありますので、飼い主にも充分気配りをします。

★YDS訪問活動プログラム・・・

(1)メンバー紹介・犬種紹介・・・
(2)犬との接し方・・・
(3)服従基本訓練 (OBEDIENCE TRAINING)
(4)得意芸披露(ジャンプ・転がれ・立って歩く・・・)
(5)ふれあいタイム

犬種の紹介、犬と接する時の注意点などをわかりやすく説明し、ベテランの訓練犬にて服従訓練を披露し
犬は訓練(飼い主)次第で人間の素晴らしいパートナーになるという内容をご覧頂きます。
更にかわいい「芸」などもお見せし、最後にふれあいタイムとします。

★反応及び効果・・

施設によっては、かなり重度の認知症の方を対象にお見せすることがあります。
ほとんど目をつぶっている時のほうが多い方、表情の堅い方、手に力を入れて開こうとしない方・・・・・
様々ですが、そのような方々の表情、表現、変化を専門の先生方がご覧になってます。
目の前で動く犬達をみつめたり、顔が穏やかになって何日か振りに笑ったとか・・・
終了後に先生方がお話しして下さることに私たちも一安心というところです・・・。

ふれあいタイムでは、最初に犬の扱い方として尻尾は引っ張らない、いきなり頭の上に手を出さないようにと
犬との接し方のお話をしますので、理解していただける場合も多くあります。
堅く手を握ったままの方などには、なるべく長毛犬種の柔らかい部分の毛に手を持っていき触らせ
少しずつ手を開かせていきますと、不思議と抵抗無く犬をさわれるようになります。

活動開始の時からずっとおつきあいしてくれますYDSメンバーがおりますが、当初慣れないことと
万が一事故でも起こしたらという危惧から、人も疲れ、緊張感が伝わったためか
犬も帰宅早々に、どっと寝いってしまうこともありました。
しかし、今では余裕の態度・・・・・犬もリズムを学習したようです。

★まとめ・・・

やはり人と犬との関わりは長い歴史の中で、しっかりと結ばれているような気がします。
もちろん犬を怖がる方もいますので、無理は絶対にしません。
若い時に犬を飼っていたと話す方、久しぶりに犬を触ったと言って喜ぶ方と
YDSメンバーの飼い主さんと話しが弾むこともあります。

また、訪問活動に愛犬と参加している影響で、ホームヘルパーの資格を獲得した
YDSメンバーの飼い主もおり、現場で活躍しています。

訪問希望を寄せられることが多くありますが、全てに伺うことは残念ながら不可能です。
しかし、今後の日本は、ますます高齢化社会になっていきますので、私達の活動も
より一層必要とされていく気がします。
日頃のトレーニング成果を発表するという気持ちで、地道に活動してまいります。

                                        以 上