ちょっと屋久島まで SHEEPEE GO HOME

夕暮れの彷徨2005918日)
横浜の我が家の斜め向かいの奥さんに連れ合いが聞いた。
「2〜3日、いらっしゃらなかったけど、どっか行ってらっしゃったんですか?」
「ええ、ちょっと屋久島まで」
「えっ、屋久島行ってらしたの」
屋久島には、百選の大川の滝や千尋の滝などがあり、常日頃から「屋久島に行きたいなあ」と言っていたが果たせなかったこともあって、この「ちょっと屋久島まで」はショックだったとみえ、今度の屋久島行きは連れ合いからの提案となった。機会があったら、「ちょっと屋久島まで」と言いたかったのだろうか、珍しいことであった。

屋久島空港に着陸したのは午後の4時半。羽田が11:20発で鹿児島空港でトランジットが2時間もあっては、仕方がない。申し込みが2週間前のギリギリだったのと、JALはあまり搭乗したくない気持ちが働いた結果である。
レンタカーを借りて飛び出したのが5時寸前。これで、トローキの滝千尋(せんぴろ)滝大川(おおこ)の滝へいって、ついでに我がHPの「水辺の詩」用の夕陽まで撮ってやろうというのだから、滝馬鹿もこれに極まれり。しかし、23日の旅だが、2時間半もあればぐるりと一周できる屋久島なので、先ず黄昏せまる三滝を撮影し、翌日は早朝のもの、帰りの日は順光のものを撮ってやろう、というのは滝馬鹿の私としては一理ある。
トローキの滝は通行止めの崖沿いに少し行って見たが怖くなって止め、展望台からのものに留めた。ネットには正面から撮ったものが載っていたが、船からに違いない。
鯛ノ川には、千尋の滝とトローキの滝の間にもう一つ別の滝がある、と聞いていたので、注意しながら進んだが、千尋の滝への標識は完備しているものの、他の滝の名前は見当たらなかった。千尋の滝の展望台は二個所あって、駐車場より斜め後方の高台と、奥の駐車場の更に100m奥にある。当然、奥の方が滝に近く巨大な岩盤が目前に見えて迫力がある。
その奥の駐車場に行く途中に屋久島全島の大きな観光地図があったが、そこには千尋の滝とトローキの滝はあるが、鯛ノ川にはそれ以外は無く、他に大川の滝、竜王の滝(白谷の先)、蛇ノ口の滝の標示があるのみ。で、ははん、ガセだったかと。
滝を見ているうちに6時近くなった。いかに暮白の滝とはいえ、横浜に比べれば30分ほど日没が遅いとはいえ、6時半頃までには大川の滝に着かないと到底見られない。ところが、さしもの滝馬鹿も、少しだが心をそそられる物があったのをコロッと忘れていた。夕陽である。ここの日没は丁度620~30分で、その時間にまさに海に傾いた夕陽の海岸に差し掛かったのである。柵の向こうに草原の草を食む2〜30頭の黒牛。その先の波を噛む大海原に沈み行く真っ赤な夕陽。これだけで一幅の絵ではないか。なんじょう堪ろう、車を停めて夢中で撮り捲くった。牛は餌でもくれると思ったのか、集まってきてモーモーの大合唱である。至福の時を過ごしたが、はっと気がつくと、逆光に黒い牛。黒く潰れてしまって映るわきゃないやね。沈む夕陽を見届けて、すわ、大川の滝へ→
しかし、大川の滝は人の顔も定かでない夕闇の中にあった。残念!最早、銀塩フイルムではとても無理である。傍らで連れ合いがデジカメでカチカチと滝を撮っている。馬ッ鹿じゃなかろかこの女。徒労はいくらしても徒労、無駄は無駄。モーモーの二の舞。
「ほら、うまく撮れたわよ!」
な、なんと。明るい昼間同然に、木々も飛沫も空もクッキリ撮れているではないか。デジカメはフラッシュを使わなければ、かなり暗いところでも鮮明に撮れるとは聞いていたが,これほどとは思わなかった。
「私の日頃の行いがいいからよ」連れ合いは得意満面。
てやんでー、行いがええぐらいで、デジカメがうつりゃー、カメラ屋なんぞいらねえやい!
と、密かに呟く・・・

ゴンNo.2 (2005919)
私の考えでは、昨日の午後遅く西の山の陰に沈んでいた千尋の滝は、朝の8時頃には正面から日の光を浴びているはずである。はずであったが、はずでなかった。千尋の滝は、まだ西側の岩盤の半分を残して、東の山の山陰にあった。もう1時間も待てば完全に日光の中に出て来る按配だが、今日は、再び大川の滝、布引の滝、羽神滝、白谷雲水峡、屋久杉ランドと行かなくてはならないので、これ以上待てない。そそくさと千尋の滝に別れを告げ、昨日のモーモーの脇を通って大川の滝へ。
大川の橋を渡ると勝手知ったる駐車場がある。大川の滝を遠望できる遊歩道の入口に昨日の千尋の滝にあったような大きな観光案内図があり、そこには、な、何と鯛ノ川の千尋の滝とトローキの滝の中間に「竜神の滝」というのがあるとはっきり絵つきで書いてあるではないか。ケッ、こいつぁどうでも見に行かずばなるめー。大川の滝は昨日と打って変わって、飛沫をキラキラと飛ばして豪快に流れ下っていた。巨瀑であるが、24mmの広角レンズで撮ると、丁度知床のオシンコシンの滝に似た末広の、横幅のある普通の大きさの滝となってしまい、肉眼で見たときの巨大さが表現できない。で、連れ合いを豆粒のように滝壷前に座らせて撮ったところ、やっとその大きさが表現できた。猫の子よりは役に立つな、やっぱ。
屋久島の東海岸からは、種子島が遠く長く横たわっているのが見える。西海岸からは口永良部島が臨まれ、時間があれば絶好の夕陽撮影ポイントに違いない。しかし、日没を19:00ころ撮影して帰ると急いでも20:30を回ってしまい、夕食を喰いっぱぐれという事態もあるので断念。屋久島の周囲は、永田−一湊−宮之浦−空港−安房−尾之間−湯泊−栗生−大川とぐるり300度くらいは比較的断崖は無い。それかあらぬか、知床半島のように海辺の道はほとんど無く、県道からは海の見えないところが多いが、西海岸は断崖絶壁が続き、絶景ポイントもたくさんある。ついでながら、屋久島周囲の道はほとんど2車線の良い県道だが、断崖絶壁の西海岸のみは擦れ違い困難な細道である。
永田岬を回って永田地区に入ると、途端に道が良くなる。ここから一湊、宮之浦と過ぎて六分の五周は良い道が続く。永田の先の集落一湊に布引の滝がある。立派な駐車場もトイレもあって、滝公園となっている。観光写真によると、かなりの水量と落差のある滝のようだが、台風14号以来の晴れ続きで、ほとんど落水は無く、岩肌だけが見えていた。仕方が無いので下部の細流のみの撮影となった。
宮崎駿監督のアニメで一番の傑作は<となりのトトロ>であると私は思うが、<もののけ姫>もまた捨て難い。これから行く白谷雲水峡は、この<もののけ姫>の舞台モデルとなった所だそうな。きっと、苔や巨大杉の倒木で埋まった原生林なのだろう。そういえばまだ、なんとか杉という名前のある屋久杉を見ていない。樹齢1000年以上でないと屋久杉とは呼ばないそうだが、今までは海岸ベリをウロチョロしてたのだから、当然か。白谷雲水峡は宮之浦から山の方に入って行くが、グングンと、世界遺産の近くにこんな良い道を作って良いのだろうか、と思ってしまうようなスカイウエーを上って行く。途中に、滝馬鹿でなければ決して興味を引かないような小滝があって、危うい岩を登って撮影した。今度の旅ではトローキの滝の時も布引の滝の時も、通行止めの標識を無視したりして、何か無理を重ねている感があったが、まさか前方にあんなことが控えているとはちーとも思わなかった。連れ合いによれば「私をイジメルからバチが当った」
峡谷入口で協力金@300円也を払った。入口の橋の上から峡谷F1の10mほどの滝が岩間に見え、滝心をそそる。滝壷に行きたいが手段はない。遊歩道を暫く登ると、前方にネットの写真で見た<飛龍落し>とおぼしき急流が見える。しかし遊歩道からでは木に隠れて良く見えないので、柵から出て、河原に降りることにした。足元が危うくソロソロと降りたが、先方に大きな岩が二つ続いていて、ポンと飛び移れそうである。で、ポン、ゴン、・・・暗黒。一瞬何が起こったか分からない。気が付いてみると岩と岩とに挟まれて頭を抱えていた。耳がガーンとなって気持ち悪かったが、見上げると岩と岩の間の頭上に太い枝が出ていて、こやつが原因だったのが分かった。秋田県は鹿角市の錦見の滝で、我が連れ合いが橋床で滑って、仰向けに<ゴン>して以来のことだ。【ゴンNo.2】だ。
それでも這いずり回って写真だけは撮ったのは、我ながら滝馬鹿の面目躍如か。だが、この滝が<飛龍落し>じゃなかったというオソマツが付いて・・・。頭の痛いのは直ぐに直ったが、首と肩が痛重く、全体がだるく、意気の上がらないこと夥しい。記述の中に連れ合いの姿が見えないが、そんなに簡単に駆けつけられるところじゃなかったので、特に許すが、「どうしたの?どうしたの?」と叫んでいるばかりじゃね。しかし、当日の一連の私の所作を見ると、どうも少し自然をナメていたようである。真摯に反省。(筆者注:現在むち打ち症にて通院治療中、トホホ)
白谷雲水峡は、飛龍落し、二代大杉、もののけ姫の舞台そのものの苔の谷の50分コースを回ったが、弥生杉は意気消沈して行かなかった。うるさい虻のように耳元で「バチが当ったー、バチが当ったー」という騒音もしたものだから。
ヤクスギランドは私たちが宿泊していた屋久島グリーンホテルのある安房から宮之浦岳の方に上っていく。上って行くうちに段々と雲に巻かれてきて、とうとうすっぽりと霧の中に入ってしまった。3日間とも麓や海岸べりは快晴だったのに、宮之浦岳山頂やその周辺には常に雲がかかっていた。きっと一年366日雲の冠を頂いているのだろう。ヤクスギランドは縄文杉ツアーをしない人たちが簡便に太古の原生林を堪能できるようにしたところだと思うが、遊歩道は誠にしっかりしたものだった。紀元杉を見に行った後だったので、@300円払って50分コースを巡った。倒れた巨杉に苔が生えて、その上に幼杉の芽が転々と生えている。周り全体が苔の緑に包まれたようなところもあり、幽玄かつ太古の大きな自然の営みが体験できた。
気が付いてみると、もう昨日YS11が飛行場についた16:30である。これから例の<竜神の滝>ってヤツを探さねば。昨日の千尋滝への行程を思い出してみると、ここではないか、という見当は付いていたが、トローキの滝辺りで島人に確認してみるにしくはない。で、トローキの滝駐車場の売店前で、連れ合いに言った。
「おい、何か冷たいもの飲みたくないか?」
「そうね、飲みたいわね」
シメタ、と心の声。
「じゃあ、お前の好きなCCレモンでも買ってくるといいよ。あ、そうだ、ついでに竜神の滝とかってののことも、聞いて来て」
「えっ、私があ?」最初からその積りだったんでしょ、とかなんとか言って、店に入って行った。暫くして憮然とした顔をして出て来たので聞いてみると、「店員なんて何も知らないのね!2人もいて!」
それでも奥から出てきたお婆ちゃんが教えてくれたらしい。教えてくれた道筋は、連れ合いには曖昧で何のことやら分からなかったようだが、聞いていた私には、昨日来疑っていた道であることが得心できた。

朝、千尋の滝へ行った道を途中まで行き、鋭角に右折して3〜400m。千尋橋の上から立派な滝が見えた。こんな滝が、どうして観光地図に載っていないのだろう?どうして標識もないのだろう?滝のマイナーさをつくずく感じたことではあった。今は夕方が近く陽も傾いて、ちょっと陰鬱な感じになっているので明日の朝また来ようっと!
夕暮れになったはなったで、また別のヤツがある。夕陽だ!モーモーランドの夕陽が失敗しているとはそのときは露知らず、同じところで撮ってもしゃんめえ、とばかり、今日午前中に西海岸を回った時に目を付けておいた海岸に向かって車を走らせた。その粟生の海岸で日没を待って撮ったのが、これこれ夕陽はセッティングが難しいなあ。
日没と同時に宿に引き返すわけだから、今日は早く夕飯にありつける。昨日はこの時間から大川の滝に行ったのだから、帰りがどうなったかは推して知るべし。しかし、帰りの車の中で連れ合いが騒ぎ出した。
「あっ、窓開けて!そじゃなく、後ろ、後ろの窓開けて。そじゃなく、両方!虻よ、虻がいるのよ!・・・閉めて、早く閉めて!」
レンタカーなんだぞい。そんな簡単にできるわけなかろうが。
「あっ、まだいる!もう一回開けて!、閉めて!あっ、まだいるわ、開けて!」
「うっせーな、虻の一匹や二匹なんだ!そんならお前が外に出て、走って外から追い出したらどうだ」
ちょっと言い過ぎたかな、と後悔したが後の祭り。ぷっと膨れて口を利かなくなってしまった。
暫くして、
「前の方に行ったよ〜〜〜」
小さな小さな声がした。


虻の祟り? (2005919)
何か感ずるところがあったのか、6時2分に目が覚めた。「すわ、日の出!」と思って窓をあけると、丁度、旭日が出かかっているところだ。慌ててデジカメを持ってきてシャカシャカ、完全に昇り切るまで撮影した。さて、起きようか、と鏡の前を通り掛かったとき、
「ゲゲッ」
鏡の中には、怪談話に出てくるような酷い面相の男がこっちを見ていた。右目の上瞼下瞼は真っ赤に腫れあがり、三日月型に奇怪に垂れ下がった、ほとんど潰れかかった目の奥には充血した白目が覗いている。まったく自分の顔とは思えない。「な、な、な、何だ、何だ、何だ」
先ず心配されたのは、昨日の<ゴン>の後遺症だ。頭を打って、首を痛めて、こんな症状が出る例があるのだろうか。聞いたこともないが、医者に聞いてみなければ何とも言えない。脳の障害だとまずいな。徳洲会病院というのがあったな。まだ6時だから早いしなあ。飛行機は12時40分発だからレンタカーは11時40分までに返却しなくちゃならんし。恥ずかしくて人前を歩けないしなあ。家に帰るまでもつかなあ。明日会社どうしようかなあ。虫に喰われたとしても痒くも何ともないしなあ。と、思いは千々に乱れた。
「これで冷やしてみたらどうかしら?氷もあるし」
どうしようかと話し合っていた連れ合いが、冷えた缶ジュースをティッシュペーパーにくるんで持ってきた。もう、何にでも頼っちゃう。ジッと佇んで全身を探って見たが、確かに目が腫れぼったい感じと、肩が凝って首周りが痛い感覚以外には何もないようである。病院にでかけられる8時半頃まで冷やして様子を見ようと決めた。1時間ほど缶ジュースや氷で冷やした。
「あら、だいぶ腫れが引いたわよ。効いたみたいね。やっぱり私の言うことを聞いていれば間違いないんだわ」
最後のところは余分だが、鏡を見るとだいぶ男前が戻ってきている感じだ。もう少しやってみよう。
「きっと昨日の虻に刺されたんだわ。昨日あんなに私のこと苛めるもんだから、虻が復讐してくれたんだわ。虻の祟りよ。恨みの一刺しよ」
安堵もしたのだろうか、例の榎本夫人のようなことを言う。当方返す言葉もなし・・・
8:30。無かった食欲も出てきたので朝食に行きたいが、まだ相当醜い。片目パンダかノックアウトされたボクサーといったところ。あっ、そういえばサングラスを持ってたんだっけ。朝食を済ませ、腫れも引いてきて、帰り支度を終えてしまうと、残された1時間40分で、またまた滝に行きたくなってしまうのだから、毎度の滝馬鹿。
三度目に訪れた千尋滝は、今度こそ満身日光を浴びている時刻のはずだったが、下界は快晴にも拘わらず宮之浦岳方面から湧き出た雲に邪魔され、しばらく待ったがとうとう撮影できなかった。写真撮影には、ただでさえピーカンよりは曇りの方がいいわけで、贅沢な悩みと言えば言えるが、残念!龍神の滝の方は快晴だったが、リバーサルフィルムが切れて、切腹!
                                            【了】