箱根風雲録 (1952年:新星映画:独立プロ)
監督:山本薩夫
出演:河原崎長十郎、山田五十鈴(1952年度ブルー・リボン主演女優賞、
毎日映画主演女優賞)、轟夕起子、河原崎国太郎、中村翫右衛門、
岸旗江
物語:四代将軍徳川家綱の世のこと、江戸浅草の商人、友野与右衛門
(河原崎長十郎)は三島宿北方の荒地と民衆の貧困を見て、芦ノ湖
の水を湖尻峠を刳り抜き、深良川に引くことを考える。これが世に
言う箱根用水(別名:深良用水)である。
一商人と農民(代表:大庭源之丞)がこのような大事業を行うのは
体制にとって危険と見た幕府は、メンツを潰されたこともあって、この
灌漑用水工事をことごとく邪魔し、友野与右衛門は何度も捕らえられ、
命を狙われる。しかし、農民の篤い後押しがあって、幕府も公然とは
与右衛門を殺めることは出来ないでいた。
寛文10年(1670年)、箱根用水が完成し、深良水門が開かれたそ
の日、冤罪を受けた友野与右衛門は、農民の見ている前で謀殺され
てしまうのであった。
背景:工事を主導したのは名主の大庭源之丞と友野与右衛門であったが
この映画は友野与右衛門の側から描いている。史実では、工事が
完了して以来二人の消息は不明となっているが、山本薩夫は、完
工の日、牢格子に取り縋る与右衛門の背後から役人が刺し貫く、と
いう衝撃的な画面として描いた。
影響:私は9歳の時、父に連れられてこの映画をみた。懸命に生きようとし
ている農民達を弾圧する幕府の役人の醜悪な顔を見て、断然の反体
制になった。子供に対する映画の影響は大きい。幸か不幸か、行動
力がなかったため、長じるにつれてノンポリとなってしまったが、あの
映画のお上の理不尽さは、心から消えないでいる。
戦後民主主義が入って来て、階級闘争も戦争の反動として受け入れ
られた時代の映画だ。
故郷は緑なりき(1961年:ニュー東映)
原作:富島健夫「雪の記憶」
監督:山村新治
出演:水木襄、佐久間良子、三国連太郎、大川恵子、花沢徳衛、加藤嘉
物語:石坂洋次郎「青い山脈」の流れを汲む、ゴテゴテの青春恋愛映画。
記憶している人は少ないかも知れないが、何故か懐かしい想い出
とともにある。越後の信濃川流域が舞台で、列車通学をしている高
校生が偶然相手を意識しあって、恋に落ちて行くという物語で、ポル
ノチックな小説を得意とする富島健夫としては珍しい純愛物である。
雪国の寒さと、愛を確かめ合う二人の温かさの対比が画面上に良く
表わされていて、秀逸だった。
主役:当時の水木襄は東映のスターで、以後「真田風雲録」や「忍者部隊
月光」などに出演していたが、肥ってくるとともにスクリーンから消え
て行った。昭和13年生まれの65歳(平成16年現在)で、札幌でホテ
ルの支配人をやっているらしい。
記憶:私は当時高校2年生で、正にこの映画同様の、ニキビ(最近の子は
どうしてニキビがないのだろう)に悩まされた青春真っ只中にいた。
それがこの映画を良く記憶している理由かもしれない。
羅生門(1951年:大映)
原作:芥川竜之介 「羅生門・藪の中」
監督:黒沢明
脚本:黒沢明、橋本忍
音楽:早坂文雄
出演:三船敏郎、京マチ子、志村喬、森雅之、千秋実、加藤大介
ヴェネチェア国際映画祭においてグランプリ(サン・マルコ金獅子賞)を獲得
物語:芥川龍之介の短編「藪の中」をもとに「羅生門」の舞台を使って映画
化したもの。都に近い山中で、身分の高い女性と供の侍が山賊に
襲われ、侍は死亡、女性は助かった。しかし、山賊と助かった女性
の言い分は全く食い違っていた。検非違使は霊媒師によって侍の霊
を呼び出し証言を得るが、その言葉もまた、二人の証言とは全く違っ
ていたのである。
影響:1951年といえば私が小学校3年生の時のことである。父は高校の
教師をしており、また、映画選定委員(高校生が見ていい映画か否
かを選定す)をしていた関係で、8歳の私を連れて行ってくれた。スト
ーリーは上記くらいしか覚えていないが、日本映画なのに英語の字
幕がついていたことを鮮明に記憶している。確かイタリック体の文字
だったと思う。