ディベートのこつ

岡山 洋一

1996年6月6日 1st Ed.

 

準 備

(せいかつ編)

1 カレー、キムチは食うな。

 酒、たばこもやめよ。大会までは、のどを大切に。かすれた声では、フローにのらない単語が多くなります。

2 腹筋を鍛えておく…なんてのもあります。

 正しい発音、遠くの聴衆にまで声をとどかせる発声法のためです。

3 泊り込みはあまりするな。

 みんなで練習、準備をするというのは、一見いいようでいて実は効率が悪いものです。基本的には個人技をみがき、その上でチームとしての練習、準備をするというものでしょう。

 また試合前日は、寝不足にならないように睡眠を十分にとることです。ある特定の資料をどうしても探す場合は別ですが、本質的には前日の資料探しはあまり意味がありません。

4 反論は風呂やトイレでも考える。

 千葉大学宇佐美先生の著書「議論の力をどう鍛えるか」(明治図書)にも載ってます。(軍歌を聞く必要があるかどうかは、個人の趣味ですが。)

 

(でぃべーとそのもの編)

1 先輩のブリーフ(A4紙の反論例)を研究せい。

 論題は違っても、議論のパターン(定石)がそこにある。過去の大会の決勝戦も研究すべし。とくに同じ 学校の場合、同じ議論展開だということがわかります。

2 戦略シート( ストラテジーシート)は必要不可欠。

 準備段階の目標としては、ディベートの流れを予想した戦略シートができることを第一とします。どのように書くかについては、各自やりかたがあると思いますが、少なくとも行き当たりばったり、「立論だけできたから試合をやろう」なんてことを考えるのは論外だといいたいくらいダメです。

3 エビデンス(証拠資料)は同種類のものは集めない。

 情報処理が追いつかないのは準備といえません。

 また、複数の資料から一つを選んだときには、他の資料の、何が良くなかったのかメモしておくと良いでしょう。かわいそうな相手側がその資料を読んだときは、その欠点を反駁で指摘するのです(その資料はそんなこと言ってない。いつの資料か知っているの?など)

 この点は、チームの力量による?のでは?頻繁に引用される定番資料になればこのような返しを用意しておくのは当然です。

 あのエビデンスが読まれたら、こう返す、ということがほぼ決まってしまいます。そのくらい練習試合を繰り返すという事ですが。

4 立論のキーフレーズや、反駁のパターンと原稿は、暗記する。

 暗記してしまうほど、理解せよということです。自分たちのアーギュメント(議論)を理解せずに、どうして相手の議論に集中できますか。

5 立論で決めたキーワードは、反駁メンバーもきちんと使う。

 キーワードは、議論のキーポイントを突いた(例:証拠資料で強調する等)ワーディングに絞り込みます。そうすればその言葉を聞く度にその議論を想起させることができます。ただ、レトリックのレベルでは同一の表現は飽きを呼びます。そこで、よく似た表現を用意して多少入れ替えるという技を用います。

 言い換えについてはこういうのがあります。否定側第一反駁は、少し異なる言回しで、肯定側の言い分が間違ってる事を印象づけてしまう。それに対し、肯定側第一反駁は、時間がないので、肯定側立論と同じフレーズで、とにかく反駁につとめる。また、否定側第二反駁は、肯定側のフレーズを、別な言回しに換えて、否定側立論のフレーズ(練ってあるキーワード)でまとめあげる。そして、肯定側第二立論は、

a)量が多ければ、肯定が立論と同じキーフレーズ、

b)量が少なければ、別な言回しにします。

 ほぼ決まっているのは、否定側第一反駁と肯定側第一反駁です。

6 立論を手直しすることを面倒がらない。

 練習試合での反駁の失敗は、反駁の修正ですむようなものであれば良いですが、原点に立論にたちかえって、立論そのものを修正してしまったほうがよいことがある。

 ディベーターが熟練者であるなら、反駁の修正は可能ですが、参加者がディベートに慣れていないと、これはかなりむずかしい。しかし、「下手にいじるよりはこのままいこうぜ!」という意見もチーム内ででてくるでしょう。その辺の兼ね合いはコーチとチームの判断に任せるしかないが、でも経験から言うと、立論を直した方が楽だよ。

7 フローシートにはとり方がある。

(1) 略号を使う

 フローシートをとるには、一字一句全てを書き取れませんから(速記じゃあるまいし…)略号が必要です。フローの略号は、特に決まったルールはありません。本人がわかればよいのです。でも、こんなものがあるという例を挙げてみます。

(以下の表は私の記号ですので、真似する必要は全くありません、念のため)

だと思う

asm、 tk

と同じである

なぜならば

b/c

同じではない

引用文

e、 evi

〜とともに

w/

出 典

src

○無しで

w/o

発生過程

Sol、 link

○とは関係なく

n depd

いつもAだとはかぎらない

n alw A

平均すると

ave

いつもA以外である

alw n A

ところが

hw、 but

無くなった、今はもう無い

反対尋問

CX

減少している

ターンアラウンド

T/A: ValueTurnはVT/A、LinkTurn はLT/A

増えている

クロスアプライ

C/A

こういう例も見られる

ex

 私は英語でやってますが、カタカナ・ひらがな・漢字を○で囲んだり、いろいろ工夫できると思います。(漢字は書くのに時間がかかりますね)

 今回の論題では、‘首相’‘議員’‘議会’‘公選’‘派閥’‘民意の反映’‘直接’‘間接’‘リーダーシップ’‘中曽根’などの略号を自分で決めておく必要があるかと思います。

(2) ちゃんと聞き取る。

 当たり前のことだが、実は落ち着いて聞いていない、聞くことができない人がほとんどだ。場数を踏む。対外試合、チーム内試合等。自分一人のときは、カセットに自分の議論を吹き込み、それを書き取って一人試合を何度もしました。

(3) 相手の議論を予測する。

 相手の言っていることを理解できていない人は、(2)のように聞けていないと言うこともありますが、準備不足が大きく影響している場合が多いものです。つまり、相手の議論を予測していない。

 議論をあらかじめたくさん予想準備し、どのようなものがでてきても、すでに知っている状態にしておく。「なあんだ、あの議論を言っているのか。」という具合。

1) 自分たちの予想した言葉と、相手が実際に使った表現が違っていても、言っていることの主旨を理解しようという気持ちをもつ。質問のときも、「つまり○○ということをいっているのか?」と聞く。

2)何を言っているのか見当をつける。(キーワードを拾う。)

3 自分たちの議論のどこに対応するのかを強く意識する。(そのためには自分たちの議論を、議論のブロックごとに関連づけていなくてはなりません。)

4)ただし一方では、発言された実際の言葉にも注意する(うーん、むつかしい…)。具体的な練習は、「フローシートをとらないで記憶する」という方法が有効かもしれません。つまり「頭の中での整理」を中心に行うということ。

(4) わからなかったら聞く。

 反対尋問で、わからないところを相手に聞いていない。わからなかったら、とにかく聞くということです。わかっていても、確認のためにわざと聞くということも必要な場合があります。

 ですから、聞き取れなかったところが出てきた場合についてその部分は、スペースを空けておく必要がありますよ。聞いてわかったときにそのスペースを埋めていけばいいのですから。

(5) フローシートは議論ごとにゆったりとしたスペースで書く。

 用紙は十分に用意する必要がありますね。

 

(ちーむうんえい編)

1 コーチを使え、指示を待つな。

 新入社員教育みたいですが、要するに、暗記したものをテストの解答用紙に書くといった活動とは違うのです。与えられたものをただこなしていくだけでは、ディベートにならないのは当たりまえのことですね。

2 リーダーは必要だ。

 リーダーはもちろんある種の役割分担や、発表順序などの考慮は戦略の一部です。

 準備段階から試合本番まで、チーム内で意見の衝突もしくは喧嘩なんかが、結構起きるものなんだ。調整問題状況。戦略は一貫していることがまず第一。もめたときには機械的に誰の意見を優先するか決めておくべき。と言うより、発表順序も作戦のうちと考えたら、自然に中心人物は決まるのです。

 経験上しんどいのは、肯定側第一反駁と否定側第二反駁でしょう。この辺に強力なディベーターを配置するのが普通です。

 昔は、ドライバーといったもんさ。

3 チーム内やコーチとの関係は、主従関係をビシッとしておく。

 これは難しいけど結構重要です。議論を活動のメインにしているだけに、反対する人もいるかもしれません。しかし、メンバー同士で混乱が起きたとき、その問題解決に時間をさいているより、リーダーの号令一下、混乱の種になった議論をより強固なものにすることに集中すべきです。

4 ディベートに必殺技などない。

 ホーム(Home to Home、学校間の練習試合)では相手に情報を渡すことによって、スピーチの練習をさせてもらえると割り切るべし。隠しケース、隠しエビデンスは本番に弱い。まして、それらを必殺技と思うのはとんでもない誤りです。必殺技どころか、致命傷になりかねない。ディベートに慣れていないうちはそういう罠にはまりやすいもの。

 資料や言い回しはどんどん教えて、どんどん教えてもらう。一つか二つ相手側から思いもかけぬ反論があれば、成果としては十分。なにも相手から目新しい反論がなければ圧勝なのだから、それはそれで気持ちがいいもの。

 

当 日

1 試合当日は、食事を抜くな。

 朝飯、昼飯を、軽くとるようにする。

2 立論は、声で聞かせるな。ジャッジに書かせて、目で見せろ。

 ナンバリングを階層的にしっかり行い、ジャッジがフローシートをとりやすいように、またその後、見やすいようにスピーチを準備する。

3 反駁は、ジャッジにフローを見させるな。声で聞かせろ。

 ジャッジがあなたの議論をどこに書くか迷って、フローシートをさがし続けている間は、あなたの声はとどいていない。そもそも第二反駁では、 新たに書くべき事は無い。あるのは、ニューアーギュメントぐらい?

4 反対尋問はジャッジをにらめ。

 相手にたずねるのではなく、相手からの答えをジャッジの前に引き出す。答えるときも同じ要領。

5 エビデンス(証拠資料)のない議論は、自信を持って大きな声で発表せよ。

 相手に「反論を考えるのは時間の無駄だ」と思いこませよ 。

6 反論に迷ったら「こんなのうそに決まってるじゃん」と心の中でつぶやけ。

 その気持ちが、反論を思い付かせる。

7 反論はフローに書かずにポストイットを使おう。

 書いたり消したり、書ききれないのを別なところに書いていたのでは、フローがぐちゃぐちゃになってしまう。

8 言い忘れた事、アドバイスは声を使うな、紙に書け。

 試合中に、自分より後の発表者に、「コレ言って、アレ言って」と伝えてはいけない。その人の役割を邪魔することになるので、伝えたいならメモを渡すこと。そのメモを採用するか否かは、そのスピーチをする人が決めること。

 つまり、「コレ言ってといったのに、言ってくれなかったから試合に負けた」という文句は御法度。

9 重要な反駁は、真っ先に言う。

 反駁で「起・承・転・結」を考えたディベーターが、「転」のところで、時間切れになり、結局自分たちのチームに有利な事を一つも言えずに終わった…というのは笑い話ですが、よくあります。

10 試合中は、チーム内で喧嘩をしない。

 喧嘩をするということは、メンバーの意見が合わなく、お互いが譲れないと考える部分があるということです。相手チームが聞いてます。聞いた部分を反論として利用されます。結構、喧嘩はあるもんです。

11 自分のスピーチが終わっても、フローシートを書き続けろ。

 自分のスピーチが終わるまではフローがとれないこともある。しかし自分のスピーチが終わったら、チームとして反省会をするためにも必ずフローはとれ。

12 アピールはきちんとする。

 私も経験ありますが、第2反駁を終えると虚脱してしまって、アピールまでもたない。 また、なんとなくアピールをすることが、潔くないような気持ちになってしまいます。

 しかし、「審判はちゃんと見てくれていたはず」なんていう甘い考えはすてましょう。アンフェアーな点、ニューアーギュメント等をアピールしましょう。

13 ディベートは紳士・淑女の知的ファイトだ。

 議論を戦わせて、勝敗を決めるということは大変なファイトである。それだけに全てにわたって、マナーやエチケットには十分配慮して欲しい。中学生だから、高校生だからいいということはない。

14 汗をかくので、汗拭き用のタオルを忘れずに。

 これは、私だけでしょうか。

 

コーチのために

1 緊張して当たり前だ、と指導しましょう。

 かえって、より良い緊張感は不可欠のものだということです。

 ディベーター自身は極度のプレッシャーの中にいると想像できますが、それがかえって倦怠感を生んでしまう場合があります。その結果、周りに対する基本的な配慮を失わせてしまって、チームとして団結できなかったり、試合に対する集中力を欠かせてしまう原因になります。精神論を語る必要はありません。練習試合はそういう意味でも効果的だということです。

2 「礼儀ってもんは大事だ」という話しくらいはして下さい。

 練習試合で講評してくれるコメンテーター(ジャッジ)の方に、コーチの方が「ありがとうございました」と言ってる後ろで、ディベーターがそっぽむいてたなんてことのないようにして下さい。ジャッジはディベーター以上にプレシャーがかかり、イライラしていると思って下さい。

 また礼儀知らずでは、どんなに崇高な議論を目指しても、必ず不毛な感情論の応酬になってしまうことはご存知のとおり。礼を尽くして、初めて自由な議論が成り立つことを、生徒たちが知るいい機会になるはずです。

3 ラベリング・ナンバリングを意識した、指導をしましょう。

 結局、そこのところをかなり意識してないと、フローシートが取れないようなグチャグチャの立論になりがちです。ジャッジが自分で整理してフローシートに書くことになってしまうと思います。

 私は議論のブロックを線で結ぶようにという表現を使っています。階層的に立論を整理するようにしましょう。

 フローシートのとり方そのものも大事ですが、立論がフローをとりずらいものになってませんか?相手チームがフローをとれる、またはチーム内での練習の時に、他のメンバーがフローシートをとれるような立論にする、ということを指導の目安にしてはいかがでしょうか?