少年法に関する基礎知識

 

●少年法の目的

1949年(昭和24年)に施行された少年法の精神は、次の通りである。

1条 法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

 

●少年法に定められた少年非行の種類

1 犯罪行為 14歳(刑事責任年齢)以上20歳未満の少年による犯罪行為

2 触法行為 14歳未満の少年による触法行為(刑罰法令に触れるが、刑事責任年齢に達しないため刑事責任を問われない行為)

3 虞犯(ぐはん) 20歳未満の虞犯(1保護者の正当な監督に服しない性癖のあること、2正当の理由がなく家庭に寄り付かないこと、3犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し又はいかがわしい場所に出入りすること、4自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあることのうちいずれかの事由があって、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあると認められる行状)

 

●少年非行の処遇

1 罪を犯した少年などは、はじめに家庭裁判所に報告される。家庭裁判所は少年に対して審判を行うべきかどうかを調査して決定する。

2 調査の結果、家庭裁判所が「審判が妥当」と判断した場合、「懇切」かつ「なごやか」に審判(非公開)が行われる。審判の後、(1)保護観察、(2)養護施設へ送致、(3)少年院へ送致、(4)児童相談所長へ送致、(5)検察官へ送致、(6)保護処分無しが決定される。

3 保護処分が下された場合、取り消しが行われない限り、少年に対する処分は確定する。少年及び保護者は少年審判において附添人を選任できる。ただし、弁護士以外の人間(例えば保護者)を選任する場合には家庭裁判所の許可が必要である。

4 家庭裁判所は「刑事処分が相当」と判断した少年を検察官に送致(逆送)することができる。ただし、16歳未満の少年は送致の対象外となる(刑事裁判の対象外)。

5 18歳未満の少年に対して死刑/無期刑を言い渡すべき時には、それぞれ無期刑/10〜15年の有期刑に減刑される。また無期刑の場合、仮出獄を最短7年で承認することができる。

6 雑誌などに容貌・氏名・住所など少年の個人情報を掲載してはならない。

 

少年法適用年齢

20歳未満

処罰可能年

16歳未満

刑事責任年

14歳未満

 

0歳〜13

刑事責任年齢に達しないため処罰されない

14歳〜15歳

刑事裁判の対象外であるが、少年法により処罰される

16歳〜17歳

刑法が適用されるが、死刑→無期刑、無期刑→10〜15年の有期刑に減刑される

18歳〜19歳

刑法が適用される。成人と同じ刑罰を受ける

 

少年法改正派の意見

1 18歳・19歳はもはや少年ではない

18歳・19歳という「グレーゾーン」が存在している。死刑が科される可能性もあるが、実名が公表されず、起訴までの段階は、家庭裁判所によって審査される。18歳・19歳はもはや少年ではなく、少年法で保護すべきではない。

2 少年審判は適正に行われていない

現行法では、少年の審判に検察官が立ち会うことは事実上不可能である。結果として、少年審判には家庭裁判所と、犯罪当事者たる少年と、その附添人たる弁護士などしか参加できない。これにより正確な裁判が行われなくなり、また冤罪事件が生まれる可能性もある。

3 応報概念が欠落している

「罪を犯したらそれに相応する罰が加えられる」という応報概念が現行法には全く見られない。被害者の心情を重んじる点から見ても、少年法への応報概念の導入は必要である。

4 犯罪抑止効果がない罪と罰の均衡が崩れている。

少年法においても、犯罪者を刑事事件で起訴することはできる。しかし、18歳未満の少年達は、どれだけ重犯罪を犯したとしても、7年で刑務所から出獄することが可能である。そのため一部の少年達の間には「犯罪するなら17歳まで」という風潮が広まりつつあり、少年犯罪の凶悪化の一因になっている。

 

●少年法擁護派の意見

1 少年の更正に大きな役割を果たしている

家庭裁判所の係官や養護施設、少年院などの職員の努力により、少年犯罪者はここでの経験を経て、立派な社会人として再出発を果たしている。少年の更正に大きな貢献をしている少年法は存置すべきである。

2 刑罰に犯罪抑止効果はない

刑罰の犯罪抑止効果は認めがたい。厳罰化の結果、実際に犯罪が減ったという論証が統計学的になされたことは殆ど無かった。

3 犯罪情報開示による人権侵害

少年犯罪の情報が開示されると、マスコミなどに情報が載せられる。その結果、本来ならば保護されるべき加害者の親類・友人等の人権が侵害される。

4 凶悪な少年犯罪は稀なケース

最近発生している少年犯罪の中には、きわめて凶悪なものもある。しかしそれらは稀なケースであり、凶悪犯罪以外は、現行の少年法の枠組で十分に対処が可能である。

5 少年法改正は『児童の権利に関する条約』に抵触する

日本が1994年5月22日に批准した『児童の権利に関する条約』の中には、児童に対する死刑の禁止が明記されている。凶悪事件の厳罰化は国際法違反になる可能性が高い。

 

参考文献

法務省法務総合研究所編『平成11年版 犯罪白書』大蔵省印刷局 1999年

沢登俊雄『少年法』中央公論社 2000年

芹沢俊介『解体される子どもたち』青弓社 1994年

宮川俊彦『キレる理由』同文書院 1998年

津田玄児『少年法と子どもの人権』明石書店 1998年

浅川道雄『「非行」と向き合う』新日本出版社 1998年

荻原恵三編著『現代の少年非行』大日本図書 2000年

後藤弘子編『少年非行と子どもたち』明石書店 1999年

小浜逸郎『14歳 日本の子どもの謎』イーストプレス 1997年

清永賢二編『少年非行の世界』有斐閣 1999年

小田晋『神戸小学生殺害事件の心理分析』光文社 1997年

野口善國『それでも少年を罰しますか』共同通信社 1998年

佐木隆三『少年犯罪の風景』東京書籍 1999年

日垣隆『少年リンチ殺人』講談社 1999年

黒沼克史『少年にわが子を殺された親たち』草思社 1999年

村山士郎『激変する日本の子ども』桐書房 2000年

芹沢俊介『子供がキレる12の現場』小学館 1999年

間庭充幸『若者犯罪の社会文化史』有斐閣 1997年

小野善吉『累犯少年と家族に関する研究』近代文藝社 1997年

新倉修『少年法の展望』現代人文社 2000年

菊田幸一『少年法概説 第3版』有斐閣 2000年

荒木伸怡『現代の少年と少年法』明石書店 1999年

近畿弁護士『非行少年の処遇』明石書店 1999年

森田明『未成年者保護法と現代社会』有斐閣 1999年

八塩弘二『少年保護事件と少年法』明石書店 1999年

団藤重光『ちょっと待って少年法「改正」』日本評論社 1999年

篠崎俊博『少年Aと少年法』明石書店 1999年

 

作成:岡山 洋一

札幌ディベート研究所代表、全国教室ディベート連盟北海道支部副支部長

 Email:okayama@poplar.ocn.ne.jp

Home Page:http://www13.big.or.jp/~yokayama/index.html

 

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