ディベートに活かすストップモーション方式

岡山 洋一

 ディベートを学ぶためには、実際にやってみるのがよいとよくいわれている。いくら理論をわかっていても実際に試合してみると、以外にできないということが多々ある。しかし試合をするにはリサーチや事前の準備をしなければならず、そう簡単にはできない、またその機会はなかなかないのが実状ではないだろうか。

 そこで試合の観戦、ディベートの事例研究が有効になる。特に事例研究は、議論の組立方や発表の方法、戦略の立て方などを実際に試合をしなくとも疑似体験ができるので非常に有効である。

 従来の事例研究は、試合を録音したもの、それを書きだしたもの(トランスクリプト)、またビデオを使って録画したものなどによっている。私がディベートを始めた十数年前はまだビデオがこれほど普及していなかったので、主に録音やトランスクリプトを使って事例研究をしていた。確かにビデオを使った方法は録音やトランスクリプトよりもわかりやすく、研究しやすく、またよりよく疑似体験もできるのである。

 しかしただ単にビデオを使うのではなくよりよい事例研究を行なうためには、従来の方法よりもストップモーション方式を使った方が有効である。そこでこの稿ではストップモーション方式がディベート研究にも有効であることを、従来の方法との比較とメリットをあげることでその有効性を述べてみたい。

 まず最初に従来の研究方法の難点について考えてみたい。藤岡教授は「ストップモーション方式による授業研究の方法」の中で、従来の方法の難点を四つあげているが、これはそのままディベートの事例研究にも当てはまる。すなわち、

(1)試合の細部についてわからないところが出てくる

 ディベートのベテランと初心者の大きな違いは、試合に出てきた議論をどれだけ書きとれているか、記憶しているかということである。これは試合終了直後でも同じで、何ヶ所かを見逃してしまうと、全体の議論の流れが見えなくなってしまう。その結果審査が異なることになりかねなく、従来の方法ではベテランが詳しく説明していかなければ、初心者は気が付かないということになりがちである。

(2)長時間続けて見るのは、参加者にはかなり苦痛である

 ディベートの試合は短いものでも三十分、長いものになると一時間以上にわたる。たとえおもしろい試合でも、やはり初心者にとっては長時間にわたって観戦し、議論の流れを追うためにフロー・シートを取り続けることは苦痛である。また、よく見ようとすればするほど集中力が必要で、一時間以上にわたる試合を見ながらメモを取り、その時自分の考えたことを忘れずにいるためには、相当な訓練が必要となる。

(3)ビデオで初めて見る一試合分のディベートの内容を、参加者全員が同じ内容として記憶するのは不可能である

 ディベートの試合では議論が百出するので、全ての議論をその流れに沿って記録するのは非常に難しい。参加者全員が議論の流れをよくつかんでいないと、議論の組立方や発表の方法、審査方法の説明をするときにうまく説明することは難しく、また無理におこなっても有効にはならない。

(4)以上の(1)〜(4)の結果として、かなり印象批評的になる

 ディベートを印象で批評、審査することは絶対に避けなければならない。印象で勝ち負けを決めてしまうと議論を組み立てる必要がなくなり、しいてはディベートそのものの価値を失ってしまうからである。印象的な批評を避けるためにも、ビデオをストップしながら検討していくことが必要となる。

 ではストップモーション方式によるディベート研究の方法にはどのようなメリットがあるのだろうか。藤岡教授は同著の中でストップモーション方式のメリットとして、実証性、生産性、平等参加の三点をあげている。つまり、

(1)試合の事実に即してなされる(実証性)

 試合が終わった後、審査をし勝敗の理由を述べコメントをする。議論がどのように発展していったか、どの議論が有効であったかなどを試合の流れや各議論の流れに沿って行なうが、試合終了後では議論の流れをよく覚えていない、書き取れていない(特に初心者)という問題がある。

 このコメントをストップモーション方式で行なうと、実際の試合の中で行なわれたことについて、見ている人と確認し合いながらコメントしていけるのでよりいっそう有効になる。

(2)問題を共有し定式化できる(生産性)

 ディベートで扱う論題が違っても、その中で使われた議論、理由付けがどうして、どのように有効であったかを検討していくうちに、一般的に役立つものを定式化し、自分のものとして蓄積できる。このように一試合見る毎に、問題点を共有していき、生産的に活用することができる。

(3)誰でも口出しできる(平等参加)

 ベテランも初心者も平等に口出しできるチャンスがあるこの方法は、従来のディベート研究方式には見られなかったものである。ベテランがコメントしそれを初心者が聞くというのがほとんどで、初心者に意見を聞くということはあまりなく、単に感想を聞くにとどまっている。

 しかし初心者から意見を聞くことも重要で、またそうすることにより、試合後の全員参加のメリットも生かされる。そしてたとえ試合を行なっていなくとも、参加者全員が疑似体験でき、研究する事ができるこのストップモーション方式は有効な方法である。

 このように有効なストップモーション方式を、ディベートにも積極的に活かしていただきたい。

本稿は、「授業づくりネットワーク」(学事出版)1994年5月号に掲載されたものです。