すぐ使える「予想表(戦略シート)」の作り方

岡山 洋一

(1)予想表(戦略シート)の必要性

 ディベートは議論がかみ合ってなければならない。これはディベートを行う上での大前提である。相方が勝手に自分の意見を述べ合うだけでは、ディベートにはならない。それはただ単にディベートの形式を使って言い合いをしているだけであり、そのようなものはもはやディベートとはいえない。

 ディベートでの議論をかみ合わせるためには、いかに相手の議論を予想し、その反論反駁を事前に考えることができるかにかかっているといっても過言ではない。ディベートは即興のスピーチではない。練られた議論の攻防が勝敗を決めるのである。限られた時間内で、その場で、相手の議論へ反論反駁することは、よほどディベートに慣れていないと不可能であるし、それには何年もの訓練が必要とされる。

 しかしその場ではできなくとも、事前に考えることは可能であるし、そのように指導することも十分可能である。実際のディベートの試合では、いかに用意したものを使いこなすかに主眼をおき、そして予想しきれない議論が相手からでてきたときには、試合中にはその議論を集中的に考え、反論反駁していく。そうすることによって深い議論の展開が可能になるのである。

 

(2)予想表(戦略シート)の作り方

 この様に有効な予想表、戦略シートはどの様に作ったら良いのか。次にそのモデルを掲げるので参考しにしていただきたい。

 

肯定側

否定側

肯定側

否定側

○原子力発電所は危険である。事故が起こる可能性がある。

今までも何箇所かの発電所で事故があった。(実例)

安全システムは有効に作動しない。

 

事故が起こるとその被害は大きい。

○原子力発電は危険でない。事故の可能性は少ない。

今まで事故があったのに被害はなかった。 

 

ECCS(緊急炉心冷却装置)などが有効に働く。

 

たとえ事故が起こっても防ぐことができる、大事にはいたらない。

たとえ可能性が少なくとも、その被害は大きいので廃止すべきである。

今まで被害が無かったからといって、これからも無いとはいえない。

いくら安全装置があっても、それを止めてしまうなどの人為的ミスは防げない。

今までのような小さい事故は防げたかもしれないが、大事故は防げない。

可能性が少ないならば廃止するのではなく、事故を防げるかどうかを考えるべき。

今まで事故が無かったということは、事故防止が有効であったということ。

人為的なミスは訓練で防ぐことができる。

 

肯定側は大事故が起こる可能性を証明していない。

実際の予想表、戦略シートは試合の流れにそって作成する。各スピーチを最後まで予想し、反論反駁を考える。

 表は簡略化してあるので、実際に作るときには次のことに注意し作成する。

・紙のサイズはあまり大きなものにせず、大きくてもA3判までとし、一目で議論の流れがわかるようにする。

・紙は横に長く使い、そのディベートの形式、流れにそって最初から最後のスピーチまでの議論を予想し、作成する(最後まで予想することの重要性は後述する)

・なるべく細かく予想し、紙が足りないのであれば何枚も使うようにする。

・自分達の発表用シート(ブリーフ)や証拠資料カードは別に作り、予想表にはそこまで書き込まず、番号などを書き込む程度にする。

 この表は、教師の指導案として使うときには「予想表」に、生徒がディベートの試合を行うときには「戦略シート」となる。

 

(3)議論の予想の仕方、返し方

 この予想表(戦略シート)を有効なものにするために、次のことを考慮し、指導しなければならない。相手の議論をある程度事前に考えることは、そう難しいことではないであろう。しかしその予想した議論に対し、自分達がどの様に返すのか、つまりどの様に反論反駁していくのかを考えるのは難しいかも知れない。そのためにもこの予想表が必要なのである。

 まず最初に自分達の議論を考えるときに、自分達はどの議論を主にディベートをしていくのかを考えなければならない。その時に考えた議論が弱く、簡単に相手に返されそうなものであれば、最初から出さない方がよい。予想表を作るときには、どの議論を出し、どの議論をやめるべきなのかも同時に考えるのである。

 自分達の議論が決まったら、次に相手の議論の予想に入る。相手の議論を細かく予想し、いくつもの選択肢も同時に考える。初心者のうちはなかなか相手の議論を予想できないので、考えられるものを全てあげ、何通りもの予想を立てておく。

 相手の議論が予想できたなら、次は自分達がその議論にどの様に反論反駁していくかを考える。自分達がAであると言ったときに、相手はいやAではない、またはBであると言ってくる。そこでまた自分達がAであるとただ繰り返して言ってしまっては、いつまでたってもかみ合った議論ができない。正反対の議論が相手から出てきたときに、どうして相手の議論が間違っているのかを示し、そして次にどうして自分達の議論が優れているのかという理由を示さなければならない。これができたとき、初めてかみ合った議論ができたことになり、またディベートを行った意味もあろうというものである。

 最後のスピーチでは、自分達と相手の議論を比較し、各々の議論に決着をつけ、なぜ相手の主張が間違っているのか、なぜ自分達が勝っているのかを示す。そのために最後のスピーチまでも予想し、事前に準備するのである。

 かみ合ったディベートを行うためにも、ぜひ予想表、戦略シートを作成し、有効に使ってほしい。

本稿は「教育科学 社会科教育」(明治図書)1995年2月号に掲載されたものです。