ディベートのための基本用語解説

岡山 洋一

ディベート

 一般にディベートとよばれているものは、大きく2つに分けられる。教育ディベート(アカデミック・ディベート)と実社会ディベートである。アカデミック・ディベートは議論の方法を学ぶためのディベートで、そのディベートの審査結果が現実に影響をあたえることはない。実社会ディベートは、実際の社会でおこなわれるもので、そのディベートの審査結果が現実に影響をあたえる。

論 題

 ディベートのテーマともいうべきもの。肯定側・否定側の範囲を決めるもの。つねに命題の形式をとり「〜だ」「〜すべきである」など、断定文の型をとる。論題の種類には、「事実論題」「価値論題」「政策論題」がある。「事実論題」は、ある事柄があった・あるなどという事実について議論する。「価値論題」は、ある事柄が良いか悪いかという価値判断について議論する。「政策論題」は、なんらかの行動案、プランを実行すべきなのかどうかについて議論する。

肯定側

 論題を肯定する側。論題を支持し、論題の範囲で決められた行為・事柄を主張する。

否定側

 論題を否定する側。論題の範囲外の行為を支持する。多くの場合は現状肯定、肯定側のプランによるデメリット、カウンタープランなどを出し、論題の採択を否定する。

立 論

 ディベートの最初に肯定側・否定側両方が行うスピーチ。立論では全ての論点を示さなければならない。

反対尋問

 立論に対して相手側が質問し、立論をした側が答える時間。反対尋問の目的は、相手側の主張の不明な点を確認する、相手側から自分達に有利な答えを引き出す、相手の不備をつくなどである。

反 駁

 立論、反対尋問の後におこなう、相手側の議論に反論・反駁するスピーチのこと。反駁とは相手側に反論された自分達の論点を立て直すこと。ただし立論で出さなかった新しい論点を出してはならない(ニュー・アーギュメントの禁止)。反対尋問のないディベートはあるが、反駁のないディベートはない。

作戦タイム・準備時間

 試合中にディベーターにあたえられる準備のための時間。肯定側立論の後、反駁の前などに時間を固定して決められているものと、ディベーターの要請により、一定の時間を試合中に自由に使えるものとがある。

フローシート

 ディベートの論点を時系列的に記録する用紙。通常大きめの紙に(B4かA3)、肯定側立論、反対尋問、否定側立論、というふうに横に議論の流れを書いていく。審査員はもちろん競技者も試合中にフローシートをとる。

バロットシート(審査用紙)

 審査員が審査結果を記入する用紙。点数をつけてその点によって勝敗を決めるものや、審査の理由だけを書く方式のものがある。

ラベリング

 ひとまとまりの議論・主張を短い文にまとめたり、キーワードをつけたりすること。

ナンバリング

 ラベリングされた主張に番号をふり、わかりやすくすること。

ロードマップ

 スピーチのはじめにこれから話す順番を言うこと。ロードマップをスピーチの時間に入れる場合と入れない場合がある。

戦略シート

 全体としてどのように議論を進めていくかを、相手の議論の予想も含めて書いたもの。大きめの紙にフローシートの要領で書く。

ブリーフ

 自分達の主張や証拠資料を詳しく書いたもの。そのまま読めば良いように書く。相手の議論にあわせて数種類作っておく。

証拠資料

 主張・議論を支えるもので、事例・統計資料・専門家の意見などがある。証拠資料を引用するときには正しく引用しなくてはならない。証拠資料の捏造はそれだけで敗けになる。

比較利点ケース

 肯定側立論スタイルの一つ。現状にあまり問題がないときに使うと効果的。議論のながれは、プラン、メリット(重要性・内因性・解決可能性)の順に構成する。

問題解決ケース

 肯定側立論ケースの一つ。現状に問題があるときに使うと有効。議論のながれは、現状改革の必要性(問題の重要性・内因性・問題解決性)、プラン、その他のメリットの順で構成する。

目標基準ケース

 肯定側立論ケースの一つ。ある政策に達成すべき目標があるときに使うと有効。議論のながれは、目標、基準(目標の到達度をはかるための基準)、プラン、現状で目標は達成されていない、プランが目標を達成するという順で構成する。このケースは価値論題でも用いられる。

プラン

 肯定側が提出する具体案のこと。肯定側のプランは論題の範囲内になければならない。

必要性

 肯定側が出す、現状改革の必要性のこと。なぜ現状を変えなければならないのか、なぜ肯定側のプランを採らなければならないのかを主張する議論。

重要性

 現状改革の必要性やメリット・デメリットがなぜ重要なのかという議論。質と量の両面から検討する。

内因性

 現状の問題が生じている原因となるもの。内因性議論には、問題がおこっている原因、制度・人為的障害、政府の対応策の失敗などがある。

解決可能性

 プランが本当に問題を解決するのか、メリットを生むのかという議論。

実行可能性

 プランが実行可能かどうかという議論。人員、技術、予算などが不足していると実行可能性が問題となる。

フィアット

 政策論題では、論題の主体(通常は日本国)が本当にプランを実行するかどうかを証明する必要はない。すべきかどうかという点を議論する。論題の主体がプランを実行したと仮定して、メリット・デメリットが生じるかどうかを議論しあう。この仮定のことをフィアットという。

メリット

 プラン、カウンタープランから生じる利益のこと。重要性と内因性の証明が必要。

デメリット

 プラン、カウンタープランから生じる不利益のこと。重要性とリンク(肯定側のプランから生じるという説明)が必要。

否認法

 否定側立論スタイルの一つ。否定側はとくに何も支持しない。ただ肯定側主張の誤りをつき、肯定側の議論を否定する。通常は否認法と立論法を組み合わせたりして用いられる。

立論法

 否定側立論スタイルの一つ。現状を支持したり、デメリットを出したりと否定側独自の議論を出す。 

小幅修正法

 否定側立論スタイルの一つ。現状に問題があることはある程度認め、現状の範囲内でその問題を解決する修正案を出す。

カウンタープラン

 否定側が出すプラン。現状の問題を全て、あるいはある程度認めたうえで出す否定側の代替案。通常カウンタープランは次の3つの要件を満たしてなければならない。1)論題非充当性(論題に充当していない)2)競合性(プランとカウンタープランは同時に採択できない)3)優位性(カウンタープランの方が優れている)

論題充当性

 プランが論題に充当している、つまり論題の範囲に入っていること。肯定側のプランが論題の範囲外にある場合は、自動的に肯定側の敗けになる。肯定側のプランが論題に充当していないという議論は、否定側から証明しなければならない。

論題外性

 肯定側のプランの一部が論題の範囲外にあること。論題外にあるプランの部分から出るメリットは、肯定側プランを採択する理由にはならない。肯定側のプランの一部が論題外にあるという議論は、否定側から証明しなければならない。

ターン・アラウンド

 相手側の議論や主張から、自分達に有利な主張を導き出すこと。また相手のメリット(デメリット)をデメリット(メリット)に転化したりすること。

審査員

 ディベートの勝敗を決める人。審査員は自分の考えを入れないで、そのディベートで出てきた議論のみにもとづいて判定をおこなう。

パラダイム

 ディベートを審査するうえでの基本的な考え方。定常争点パラダイム(stock issue paradigm)を採用する審査員は、肯定側に充分な現状改革の必要性を求める。肯定側が定常争点(重要性・内因性・問題解決性など)の一つでも落とすと敗けになる。政策形成パラダイム(policy making paradigm)を採用する審査員は、肯定側のメリットとデメリットを較べ、より大きなほうをとる。メリットの総和からデメリットの総和を引いたもの(純利益)がプラスになれば肯定側、マイナスになれば否定側の勝ちとなる。

本稿は「楽しい理科授業」(明治図書)1996年2月号に掲載されたものです。