否定側第1反駁

 

否定側の第1反駁を始めます。まず肯定側の論点2以降を反駁したいと思います。

 

論点の2では朝鮮半島の経済は発展したと言っていますが、それに対して高橋泰隆(やすたか)さん、関東学園大学経済学部助教授、『「帝国」日本とアジア』から引用したいと思います。各地域の工業化をどう評価すべきか、これは朝鮮内の話です。

それらは日本の戦争目的への奉仕のためだから生産的ではなく、しかも対日移送により過酷な収奪を余儀なくされた。これらの工場に雇われた現地の人びとは、日本人よりはるかに低賃金で働いたし、しかも非熟練の現場労働が圧倒的であった。日本人は管理部門の独占はもちろん、現場まで進出していた。ここに戦前日本企業の最大の特徴があった。 日本の敗戦後、日本人の管理者・技術者・熟練工が帰国してしまい、膨大な設備が操業できなくなったことは、各所でみられた。(17)

つまり日本人は当時韓国を併合し、日本のための工場を作ったんです。日本人が現地に赴いて、日本人が操業した。これは韓国の、朝鮮半島の近代化とはまったく別なことです。全然近代化にはなっていない。その証拠に日本が負けて帰ったあと、全然操業できなかったことも述べられています。

 

もう一つ同じようなことを具体的にですね、渡辺利夫さん『韓国経済発展論』の中で、次のように具体的な数字をあげております。

日本人経営者、中間管理者、技術者の帰国、日本からの原材料、中間製品、資本設備の輸入杜絶のゆえに、帰属工業資産の運営は容易ではなかった。解放後の各産業部門の生産状況を解放直前のそれと比較すると、工業部門の場合、稼働工場数は44%減、従業員数は59%減、鉱業部門ではそれぞれ96%減、97%減、輸送部門は82%減、87%減という激しさであった。(18)

このように韓国において、朝鮮半島において、一時的に工場は建てたものの、結局は朝鮮半島の近代化、または工業化という面においても寄与しなかったというふうに言いたいと思います。

 

さらに、次に近代化の論として、市場の発展は近代化に直結しないという理論をひとつ、清川雪彦さん、一橋大学経済研究所教授、の言を引用したいと思います。

現地社会の経済発展につながり得るのか否か、あるいはまた、植民地での抑圧を軽減し得るのか否かについては、もう一つの「近代化」という軸を加えたうえで、分析しなければならない。なぜならば、独立国の場合と異なり、植民地にあっては、市場の発展は、必ずしも近代化(広義の経済発展)に直結しないからである。(19)

これは何を言っているかというと、一つはですね、現地の社会の経済発展に植民地化が本当に寄与したのかどうか、ということを見なくてはいけないということですね。見落とされがちです。次に植民地側の方、受ける側の方では、抑圧されていたんじゃないかという点も見落としがちであります。この2つの点をしっかり見ないと、植民地化された側の近代化というのは語れないということを、ここで述べておきます。これ重要な点なんで覚えておいてください。

 

次に論点の3。肯定側は、朝鮮半島は自力では近代化できなかった、このように述べております。この点については真っ向から反対したいと思います。植民地支配が逆に近代化の芽を摘み取ったんです。これは、旗田巍(はただ・たかし)さん、東京都立大学名誉教授、『朝鮮と日本人』という本の中でこのように述べています。

近来の研究によると、近代列強と接触する以前の朝鮮社会の胎内には、古い社会の枠を突き破るべき資本主義的要素がうまれていた。農業・工業のなかで、さらに思想の面で、近代を志向するものが胎動していた。朝鮮の民衆は眠っていたのではなく、 旧社会をのりこえ新しい社会をつくるための努力をしていた。民衆生活のなかには、未成熟とはいえ資本主義をめざす変化がおこっていた。しかし、その正常な発展は阻害された。日本を先頭とする列強の侵略が近代化の芽をつみとり、古い社会経済体制を温存・再編したからである。(20)

このように述べています。

 

次に儒教文化は近代化を推進するという面も、同じギルバート教授の資料から引用したいと思います。

東洋的な近代化の形態が、儒教的伝統に根ざす社会的な特製によるものであることは、比較考察により明らかである。(中略)すなわち第一に、家族に基づく企業家、第二に、協同歩調重視の経営者・・・(21)

 


 

(17)高橋泰隆(関東学園大学経済学部助教授) 「植民地経済と工業化」 『「帝国」日本とアジア』 吉川弘文館 1994年 p. 150

(18)渡辺利夫・金昌男 『韓国経済発展論』 勁草書房 1996年 p. 25

(19)清川雪彦(一橋大学経済研究所教授、アジア経済論) 『近代日本の植民地政策(歴史のなかの開発 岩波講座 開発と文化2)』 岩波書店 1997年 p. 241

(20)旗田巍(はただ・たかし)(東京都立大学名誉教授) 『朝鮮と日本人』 勁草書房1983年 p. 10

(21)ギルバート・ローズマン教授(プリンストン大学社会学部) 『日中比較近代化論 <松阪大学日中シンポジウム>』 山田辰雄他編 晃洋書房 1996年 p. 32