八十八夜と二十四節気

 茶摘歌に、♪夏も近づく八十八夜♪、と言う詞があります。八十八夜って何時のことだろう? 子供の頃は何の疑問も持たずに歌っていました。八十八夜は立春から数えて八十八日目の夜のことをいいます。現在の暦で52日頃に該当します。この「茶摘」唄は宇治のお茶を歌ったものですが、宇治の52日頃から、一番茶が採れるということです。この一番茶のうち、新芽を一芽一芽手摘みしたものの一部が<玉露>などとなります。二番茶は6月、三番茶は7月上旬となります。
 日本は古来より太陰暦を使用してきました。太陰暦は新月を1(これを<朔>といいます)とし、満月が15日と定めていて、新月から次の新月が来るまでを一ヶ月としていますので、夜空の月の形状、位置を見て大体その月の何日、何時と言うのがわかります。昼は太陽の位置で大体の時間が分かります。つまり、太陰暦は時計の無い時代にあって、月日時を分かり易くした暦と言えますが、後述する理由により、季節感に弱点があります。一方太陽暦(ユリウス暦)は太陽の運行を主としており、地球の公転周期を一年としているため、月の何日かには弱いですが、季節感にはすぐれていることになります。太陰暦はどうして一ヶ月以上も太陽暦からブレているのでしょうか?それでは農業主体の日本では季節感の無い暦で、どうやって農作物をつくったのでしょうか?
 月の恒星宇宙における対地球の公転周期は277時間43.7分、自転周期も277時間43.7分とピッタリ同じであるため、地球に向けては太古より同じ面しか見せていないのですが、一方で、太陽を中心に見ると、冬至から次の冬至まで太陽が子午線上に来るのは1地点約365回というのは分かっていましたので、地球の対太陽の1公転の中に月の公転回数をはめ込もうとしたのが太陰暦と言えます。
 
ここで、月の地球に対する絶対公転周期は277時間43.7分であるといいました。ところが、月の裏側は見えないといいますが、地球から月を見ますと絶対新月直後の1日と絶対新月に入る直前の1日に裏側が細く少し光って見えてしまうのです。これを朔望月といいますが、地球から見える新月から次の新月までの朔望月は絶対公転周期より2日余増えて29.53日となるのです。したがって、太陽年に月の満月の回数を12回入れても、29.53 x 12月−365 = 10.64日となり、太陽暦に比して年に10日半ほど足りません。つまり1年に10日余り季節感がずれていくことになります。太陰暦は新月を1日、満月を15日と定めているため、太陽年内にこの端数を是正する方法はありません。そこで1年分10日を3年分キャリーオーバーして、4年に一度30日の閏月(うるうづき)と言うのを入れて是正していくわけですが、その間、季節感の方は最大1か月分滅茶苦茶となってしまいます。自然の農作物の作付けや着物の衣替えなどは太陽の位置を中心とした熱さ寒さに左右されます。太陽暦を知らず、暦で節季を知りえなかった先人たちは可哀想だったのでしょうか?
 さにあらず。日本には古来よりれっきとした太陽暦カレンダーがありました! 前述しましたように、先人たちは太陽を中心としてみた一年が365日であることは熟知していました。太陽が一番北に昇り沈む位置を離れて南へ行きまた一番北に帰って来るまで(これを<黄経>と言います)に昼間が365回あることは当たり前のことでした。そこで太陽の北限に来る日を夏至と定め、南限を冬至とし、冬至から次の歳の冬至までを24の節季に分けそれぞれに名前を付けて季節の変わり目としました。これを<二十四節気>と言い、124節気(1節気15日)のカレンダーで、これは太陽暦ですので、現在のカレンダーの日にほぼ一致するのです。ほぼ、と言うのは365÷2415日余り5日となり、これは1太陽年のなかで太陰暦との絡みで是正するため、年によって多少異なります。冒頭で立春を基点とする八十八夜を、52と言ったのはこのためです。さらに、この節気に絡め、農作業などに特に関係するものを定め、これを<雑節>と称して季節感を出しました。<茶摘>の八十八夜はこの<雑節>の一つです。

二十四節気
春の季節   立春 リッシュン 雨水 ウスイ 啓蟄 ケイチツ 春分 シュンブン 清明 セイメイ 穀雨 コクウ
夏の季節 立夏 リッカ 小満 ショウマン 芒種 ボウシュ 夏至 ゲシ 小暑 ショウショ 大暑 タイショ
秋の季節 立秋 リッシュウ 処暑 ショショ 白露 ハクロ 秋分 シュウブン 寒露 カンロ 霜降 ソウコウ
冬の季節 立冬 リットウ 小雪 ショウセツ 大雪 タイセツ 冬至 トウジ 小寒 ショウカン 大寒 タイカン
雑節
節分 立春の前日。豆を撒き、柊(ひいらぎ)を掲げて邪鬼を払う日
彼岸 春分秋分の日を中日とする7日間のことで、先祖の供養をする
社日 春分の日と秋分の日の直前の戊(つちのえ)の日。地域の社や氏神様を祭る日。
八十八夜 立春から八十八日目の夜。一番茶の茶摘み、苗代の籾撒きをして稲作を開始する
入梅 6月11日頃。梅雨に入る頃で田植えの最盛期。太陽の黄経が80oとなる日。
半夏生 夏至から11日目。梅雨明け。田植えの終わりの頃。半夏はカラスビシャクのこと
土用 夏・冬の土用が有名だが立春、立夏、立秋、立冬の前18日間の4回ある。
二百十日 立春から二百十日目で9月始めに当たる。稲の開花頃に台風来やすく厄日。

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