昭和29年(1954年)      JASRAC No.013-0298-1
お富さん 粋な黒塀見越しの松
作詞:山崎  正(C)
作曲:渡久地政信(C)
歌唱:春日八郎
MIDI制作:滝野細道

(一)
粋な黒塀 見越しの松に
仇な姿の 洗い髪
死んだ筈だよ お富さん
生きていたとは お釈迦さまでも
知らぬ仏の お富さん
エーサオー 玄冶店
(げんやだな)

 (三)
 かけちゃいけない 他人の花に
 情けかけたが 身のさだめ
 愚痴はよそうぜ お富さん
 せめて今夜は さしつさされつ
 飲んで明かそよ お富さん
 エーサオー 茶わん酒

(二)
過ぎた昔を 恨むじゃないが
風も沁みるよ 傷の跡
久しぶりだな お富さん
今じゃ呼び名も 切られの与三よ
これで一分じゃ お富さん
エーサオー すまされめえ
 
 (四)
 逢えばなつかし 語るも夢さ
 誰が弾くやら 明烏(あけがらす)
 ついてくる気か お富さん
 命みじかく 渡る浮世は
 雨もつらいぜ お富さん
 エーサオー 地獄雨

懐メロ 童謡・唱歌 八洲秀章&抒情歌

   *09/OCT/04 「細道のMIDI倶楽部」TOPへ

この「お富さん」は歌舞伎で有名な「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の源氏店(げんじだな)の場を歌ったものです。やくざの子分<与三郎>は親分の妾であった<お富>と深い仲となりそれがバレてズタボロにされ34箇所も傷を受けて逃れます。与三郎はこのすごい傷をネタに脅しタカリのフリーランスやくざとなり<切られ与三郎>と異名をとるようになります。或る時子分の蝙蝠安と銭の種探しに出かけ、日本橋界隈の玄冶店で、黒塀に見越しの松といういかにも妾宅と見える家に強請りに入ると、妾が洗い髪のまま出てきて一分銀をわたす。与三郎、「こいつはありがてえ」と、相手の妾の顔をよく見ると、かつての情婦お富ではないか。そこで有名なセリフ、
  「もし、ご新造さんえ、おかみさんえ、お富さんえ、いやさお富!久しぶりだなあ」 
  「さういふお前は?」
  「与三郎だ」
  「えええ〜っ」
  「ぬしゃァ 俺を見忘れたか
  「・・・・・」
  「しがねえ恋の情けが仇、・・・」
と長ゼリフが始まる、というのが、この歌のこの場面です。
この歌の歌詞には<玄冶店(げんやだな)>とありますが、歌舞伎は<源氏店(げんじだな)>となります。<や>は<冶金の冶>ですが<湯治の治>と読み違えて<げんじ>と読み<源氏店=げんじだな>としたのではないかと想像すると、何だか楽しくなります。ちなみに<店(たな)>は長屋や貸家のことで<○○店>と呼び、そこの借家人を<店子(たなこ)>と呼びました。
<明烏>は落語で有名な<明烏>ではなく、その元となった新内の<明烏夢泡雪>を弾いている、ということです。