この「お富さん」は歌舞伎で有名な「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の源氏店(げんじだな)の場を歌ったものです。やくざの子分<与三郎>は親分の妾であった<お富>と深い仲となりそれがバレてズタボロにされ34箇所も傷を受けて逃れます。与三郎はこのすごい傷をネタに脅しタカリのフリーランスやくざとなり<切られ与三郎>と異名をとるようになります。或る時子分の蝙蝠安と銭の種探しに出かけ、日本橋界隈の玄冶店で、黒塀に見越しの松といういかにも妾宅と見える家に強請りに入ると、妾が洗い髪のまま出てきて一分銀をわたす。与三郎、「こいつはありがてえ」と、相手の妾の顔をよく見ると、かつての情婦お富ではないか。そこで有名なセリフ、 「もし、ご新造さんえ、おかみさんえ、お富さんえ、いやさお富!久しぶりだなあ」 「さういふお前は?」 「与三郎だ」 「えええ〜っ」 「ぬしゃァ 俺を見忘れたか 「・・・・・」 「しがねえ恋の情けが仇、・・・」 と長ゼリフが始まる、というのが、この歌のこの場面です。 この歌の歌詞には<玄冶店(げんやだな)>とありますが、歌舞伎は<源氏店(げんじだな)>となります。<や>は<冶金の冶>ですが<湯治の治>と読み違えて<げんじ>と読み<源氏店=げんじだな>としたのではないかと想像すると、何だか楽しくなります。ちなみに<店(たな)>は長屋や貸家のことで<○○店>と呼び、そこの借家人を<店子(たなこ)>と呼びました。 <明烏>は落語で有名な<明烏>ではなく、その元となった新内の<明烏夢泡雪>を弾いている、ということです。 |