これは、トルストイの<贖罪>を戯曲化した<生ける屍>の劇中歌として北原白秋が作詞したものですが、中山晋平作曲のいかにも歌謡曲らしい最初のものといえましょう。同じ劇中歌に「にくいあん畜生」「もう一度生まれたら」などがあります。それまでは添田唖蝉坊などの<○○節>や<鉄道省歌><人を恋うる歌>などありましたが、歌謡曲とよべるものではなく、時代は大正に入り、大正ロマンのなかで中山晋平の「カチューシャの唄」「旅人の唄」「ゴンドラの唄」や前述の<生ける屍>の劇中歌、大正オペラ<カルメン>の劇中歌「別れの唄」「花園の恋」「酒場の唄」あたりから西洋の息吹が感じられる歌謡曲となっていったのでしょう。この唄は後の「流浪の旅」「急げ幌馬車」「国境の町」に多大の影響をあたえていったものと思われます。中山晋平は、野口雨情とも「波浮の港」や「船頭小唄」などの歌謡曲も作りましたが、やはり野口とは童謡が多いようですね。 Photo by Hosomichi
さすらいの唄
作詞:北原白秋(PD)
作曲:中山晋平(PD)
歌唱:UNKNOWN
MIDI制作:滝野細道
(一)
行こか戻ろか
西は
鐘が鳴ります
(二)
泣くにゃ明るし 急げば暗し
遠い
とまれ幌馬車 やすめよ
(三)
燃ゆる思いを
馬は氷の 上を踏む
人は冷たし 我が身はいとし
町の酒場は まだ遠し
*2008/MAY/05