はじめに |
「もう、私のことダシにしないで」
<細道の奥の細道4>を読んだ連れ合いが、燕の子のような口をして叫ぶ。
「そう言ってもオマエ、二人で行っておる滝巡りの紀行なんだから当然・・・」
「いいからもう私のことを書かないで。何よ、あれ。まるで私一人が馬ッ鹿みたいじゃない」
「でも、本当のことなんだからさ。それにオレが書いとるんだから、オマエだけが・・・」
「本当なら何を書いても良いの?それに、大袈裟で、面白おかしく書いてるわよ!」
昆布や椎茸じゃないんだからダシにする積りはないが、「私のことを書かないで」となると、一人で旅した按配となり、臨場感が薄れること夥しい。しかし、多少面白おかしく書きすぎたきらいは無きにしもあらずなので、ま、今回は仕方がないか。(もう書いてやった!)
(1)み、水虫? 2000年5月4日 |
東京の桜はとっくに散り、汗ばむ季節ともなると、足もネットリして気持ちが悪くなる。しかし、私は水虫を患った経験はないので、汗で濡れて多少痒くても、何ほどのことやあらむ、とタカを括っていた。
当日は勇を鼓して午前3時半に出発。
撮影を終わって岸にあがり、足を拭いて靴下を穿こうとしたとき、な、何だ、こりゃー!
今まで全然気が付かなかったが、右足の小指の付根に赤い点点がポツポツとあり、薬指との股が真っ赤に腫上がっているではないか。たちまち小心者で半可通の知識が頭をもたげ、「こいつぁ、東北地方特有のツツガムシってヤツに喰われたんじゃあないかな。ツツガムシ病ってのは、高熱が出て、死んじゃうこともあるんだよな。ヤバイなー」
ちなみに、<つつがなく云々>というのは、旅先でこのツツガムシに取り付かれることもなく無事で、という意味だそうだが、水虫だとはちっとも思わなかった。横浜に帰ってからも、痒みと赤いのがとれないので、心配になって皮膚科へ診て貰いにいった。丸い顔の丸い眼鏡のセンセーが顕微鏡から目を離して、冷たい調子でいった。
「水虫です」
ええーッ!ずーっと水虫には縁の無かった私が、この年になって水虫とはね。白石川の水に入ったから水虫になったわけでは無かろ。前からあったものに相違ない。
くぐり滝は
キキキキーッ!ブレーキ音も高らかに、我が<芭蕉号>が急停車した。後続車がビックリして警笛を鳴らしながら追い抜いて行った。馬ッ鹿だなー危ないじゃないか!追突でもされたらどうすんだ?東北ではエンジンがかからなくなったり、ガソリン欠乏症に陥ったり、ただでさえさんざん迷惑を掛けてきたんだから。と、反省をする主家であった。杉山不動滝は丁度
杉山大滝から
「ああ、やだやだやだ。キショウメ」それこそ、「くっそー!!」
その思いは関山街道沿いにある関山大滝まで影響して、哀れやこの滝も悪印象の内にある。まず、この滝は大きな滝ではあるが、写真のポイントが決め難い。滝真上に売店があって、そこから降りていくのだが、滝口はただ、だだっ広いばかりで写真にならない。暫く下って流身の中ほども滑状で趣がない。結局正面に懸かっている吊り橋からが一番良いようだが、それも両脇の岩が張り出していて、和尚さんがハイレグを穿いたみたいで格好悪い。
それに看板が気に食わない。<日本の七大滝の一つ>と書いてある。あとの六つの大滝は何処のどの滝なんじゃい。きっとコツコツと探したんだろうなあ。滑川大滝、秋保大滝、色麻大滝、滑津大滝、不動大滝、北塩原大滝、早戸大滝、小中大滝、浅間大滝、安部の大滝、番所大滝、平湯大滝、ふくべ大滝のうち、どれをカットして六つにするのかなあ。みんないいよなあ。それとも<日本の七大・滝の一つ>かな。これはもっと遠そうだ。680番目くらいかな。
ブツブツ言いながらも、関山大滝を後にして宮城県に入り、作並温泉を目指す。ここには鳳鳴四十八滝という有名滝がある。四十八滝は、赤目四十八滝、宇津江四十八滝、滝畑四十八滝などが一箇所に集まった滝群、日光四十八滝、那智四十八滝、矢部四十八滝などは広域の滝滝を集めた総称である。しかし、一箇所で四十八滝を名乗りながら四十八滝もあった所を知らない。渓流だか滝だか区別が付かないような、1mの落差も無いようなものも集めてである。赤目四十八滝などはだいぶ無理をして名付けているようだが、それでもせいぜい21滝といったところである。四十八滝=沢山滝があるよ!といったところか。
さて鳳鳴四十八滝だが・・・関山方面から来て、広瀬川に沿って作並温泉街を過ぎても、一向にその気配がない。標識もない。あれよあれよと言ううちに、ニッカウイスキー仙台工場を過ぎて、仙台ハイランドの交差点まで来てしまった。ここを右折して直ぐのところに「不動滝」があり、遠望できるはずである。遠望できたが、広瀬川にかかる橋の上から見た、広瀬川の方にかなり立派な滝が懸かっている。なんだこっちの方がええじゃないか!後で分かったことだが、鳳鳴四十八滝とは四十八段もの段瀑もあるような連瀑の呼称であったようだ。広瀬川にかかる橋の上から見た広瀬川の立派な滝は、鳳鳴四十八滝の最下部の滝であったらしい。その時はそんなことは知らないので、鳳鳴四十八滝を求めて広瀬川沿いにR48(作並街道)を再び遡ってみたが、な、何と、すぐに作並温泉街に付いてしまった。滝は温泉街より下流と聞いていたので、Uターンしてソロソロと、後続の車に警笛を鳴らされながら引き返して見ると、先ほどの仙台ハイランドへの交差点の手前200mほどのところの右頭上に小さな標識があった!! → 鳳鳴四十八滝
→ の方を見ると、以前はみやげ物店かコーヒーショップだったのだろうか、半ば朽ち果てたような建物が建っていて、その向こうは広瀬川らしい。アスファルトの剥げた駐車場に乗り入れ、家の裏手に回って見ると、金網で仕切られた観瀑場所があって、この四十八滝の中心と思われる滝が落ちていた。かつてはこの建物は滝見茶屋のようなものだったのだろう。実り少ない1日目はこうして暮れていった。
(2)渓流美と花の都 2000年5月5日 |
鳴子温泉郷の東端に川渡温泉(かわたびおんせん)があり、そのさきに白糸の滝があるという。古川から行くと手前ということになるが。宿舎は鳴子温泉なので、見逃していくわけにもいくめー、というのは前回の「細道の奥の細道1」の話。前回は祥雲寺という古刹の前で道が通行止めとなっており、当時は詳しい地図も持っていなかったのと先を急いでいたので、割愛した経緯があった。今回は地図で武装し、通行止めも突破して行く意気込みも備えていたが、とにかく今日は青森県まで行って、奥入瀬渓流と弘前の桜を見てくる予定もあったので明日に譲ることとし、早朝の朝靄の中を出発した。途中、鳥が戯れているところや、田園風景があって、道草を食ってしまったが、一路青森へ。それっ!
東北自動車道青森線の十和田ICから出るか、小坂ICで出て十和田湖に行くか迷いに迷った。そんなモン、十和田ICからR103号を行くのが一番良いに決まっとるじゃないか、というのはトーシロさん。滝馬鹿は深〜〜い考えあって迷うのである。R103号沿いには小衣の滝、川島の滝、小根津戸の雄滝、雌滝、止滝、中滝、湯ノ沢の滝、銚子の滝、錦見の滝などなどなど、イルカが鰯の群れの真っ只中に入ったようなもので、目的と時間制限のある滝人にとって、七里結界、麻薬のようなもの・・・それほどでもないか。
小坂ICを出て県道を行く方には、「百選」にも選ばれた七滝がある。これは県道沿いにあり、時間も取られないので、鳴子温泉から一挙に東北道を駆けてきてちょっと一休み、に丁度良い按配であるからこちらのルートを選んだ、という本当はアホらしい理由であった。「七滝」は規模は大きいが滝前は広大な駐車場と公園に開発されている。これが日本の滝百選の滝に選ばれた弊害なのだろうか、滝の在るべき静謐さ幽玄さなどはなにもなく、興醒めさせられた。いつもなら滝前で一句捻るべきところ、興趣も何もなく這う這うの体で立ち去った。無念。それに「七滝」は百選にはちと適わないようにも見える。「百選なんてそんなもんさ」と言ってしまえばそれまでだが、同じ秋田県でも、幸兵衛滝、回顧の滝、三階滝、桃洞の滝、二天の滝などの方が数段良いと思うし、隣の岩手県にしても
奥入瀬は1995年秋に連れ合いと来たことがあった。そのときの旅も八幡平でUFO状の雲?を見たりして結構面白かったが、未だ滝にヤラレてはいなかったので、十和田湖の遊覧船に乗ったり紅葉を楽しんだり、奥入瀬渓谷は散策したものの、そこに15,6本もの滝が落ちているなどついぞ知らなかった。そのとき撮った写真がこれ。紅葉の渓流が二枚しか残っていないのは、今にしてみれば信じ難い。(銚子大滝は一枚隅に転がっていたがお笑い種)今回は、秋の風景は既に見ていたので滝に専念できた。連れ合いが運転し、滝近くの路肩に止め、また素早く次の滝に行ってパチリ。五両の滝では滝壷に行こうとして泥に足を取られ、芭蕉号が遠くに行ってしまってプリプリ怒り、喧嘩になって、シブシブ折れてまた滝に駆けつけ、といった具合に自分でも浅ましいほどに右往左往した。この間、当然のことながら連れ合いとの間に数々のエピソードに事欠かなかったが、冒頭からの約束ごとなので、割愛せねばならない。
しかし、5月始めの奥入瀬渓谷はまだ新緑には程遠く、銚子大滝も白糸の滝、白布の滝、雲井の滝も、全姿がバッチシ撮れたのは望外の幸せであった。他の人のサイトを見てみたが、いずれも緑陰に3分の2以上が隠れている写真で、こんなにはっきり取れているのは珍しく、「本当に白糸の滝なの?」と疑われそうな出来映えである。その分寒寒として見えるのは致し方ない。2年後に白神山地の追良瀬渓流を通ったが、こちらの奥入瀬の「おいらせ」の方が数段絵になるようだった。
鳴子温泉は6時半ころ出て来たものの、七滝に寄って奥入瀬渓谷で滝を14本も見ると、時間は早くも12時を回ってしまった。このGWの東北行の目的の一つが、世に名高い「弘前の桜」であるので、午後3時までに弘前に着くにはこれがリミットである。一旦小坂ICまで戻って東北道を北上し、大鰐弘前ICで出て行くか、一旦R102を北上してR103に入り、八甲田山の南側を回って黒石から弘前に入るか、R102をそのまま十和田湖の北岸に沿って外輪山に上って、道なりに黒石に出る三ルートがあるが、今回は最後のものを選んだ。十和田湖畔周辺の外輪山にR102を上って行くと、5月になったというのに、そこはまだ冬の景色であった。立山の、両側が雪の壁の道を行くバスの光景はよく見るが、それほどまでは高くなかったが、両側が雪の壁のなかを滝ノ沢峠に上って行った。青森第五連隊はさぞかし大変だったろう。
弘前には午後2時過ぎに着いた。
弘前の桜の名所弘前城址は観桜の群集でゴッタ返していた。静かに桜を愛でる状態ではない。これと全く同じ情景、信州高遠の観桜で起こった遠い記憶が呼び覚まされた。城址の周辺の道路はビッシリと動かぬ車で取り囲まれており、ちょっと見るだけで、按配のよいところに駐車しようなどと言う希望は、たちまち絶望感にとって代わられてしまう。
やんぬるかな。
こんな見知らぬ地で怒ったり喚いたりしても仕方がないので、常の私に似ず癇癪を押さえ込んで、じっと車の列の後ろで果報を待っていた。♀○○は午後の陽射しの中で隣席で寝ている。“果報は寝て待て”とはよく言ったものである。突然、城址の何とか門の向かい側にある市民会館か何かの公共建物の影から車が一台出てきて、動かぬ車列に割り込もうとした。何を思ってか芭蕉号、突然左折して眼前の車が出て来た方へ曲がった。
「横浜からはるばる出て来たんでよろしく。見知らぬ土地の行動なので許してください」
ブツブツと呪文のように呟きながら建物の後ろの駐車場に回ると、丁度一台分空いているではないか!管理人がいたけれど、何も言われなかったし、お金も取られなかったのである。この僥倖がいずくから来たものかは分からない。こんな城址の正面に、こんな至近距離に、こんな混雑の中で、しかも無料で停められるなんて、本当に、果報は寝て待て以外の何物でもない。
弘前城址の桜は素晴らしかった。特に花びらで埋まったお堀に懸かる桜木のアーチは目を奪われるほど美しかった。また、人の立ち入らないようなところに入って撮影できたものもあり、満足の行く観桜撮影行であった。この時期、お岩木山の向こうはまだ雪景色の通行止めで、白神山地のブナの林が雪解け水をやっと送り出し始めた頃合である。
弘前を出たのが4時前で、この頃は日も長くなっており、弘前盆地は抜けるような明るさだ。こうなると滝馬鹿としては、もう一つか二つ見てやろう、となる。弘前を南下し、
白糸の滝は、私の知る範囲では、全国で164本は所在も分かっている。不動滝は別称も含むとちょっと多すぎて・・・調べたことはない。白糸の滝の方は、分かっている限りでは
碇ヶ関ICから東北道に乗ると、十和田湖方面の山々が薄赤く夜の装いの準備をしているようであった。鳴子温泉はまだ遠い。
(3)エルムの裂け谷 2000年5月6日 |
そういえば、奥州の旅であまり事故に遭ったことがない。1000滝を巡るうちには、川にザンブと落ち込んだのが3回。ガレ場で滑落したのが2回。頭上の太い木に気付かずポンと跳んだらゴンで頚椎挫傷1回。全治一ヶ月の突き指1回。
事故は気が張っている時は起こらないが、ほっとしたり、注意が散漫になったときに起こる。川にザンブのうち2回は、ザックを背負ったまま丸い石に座ろうとしたら、ザックの重みに耐え切れず、バランスを崩して仰向け様に後ろの川へ転がり込んだものである。あまり深くなくて良かった。カメラやレンズは防水袋で二重にくるんであったので助かった。
動物にも、熊、ニホンカモシカ、ハクビシン、狸、狐、鹿、日本猿、エゾリス、エゾシカ、キタキツネ、蝮、青大将、ヤマカガシ、シマヘビ、ヤクサル、ヤクシカ、スズメバチ、ナンダカワカラナイモノなどいろいろ遭遇した。ヒグマやイノシシには遭わなくてよかったと思っている。知床ではヒグマ見物をするらしいが、イノシシは突然飛び出してきて襲ってくるので怖いらしい。
しかし、東北では小さな怪我もしたことはないし、動物も宮城県色麻大滝付近で熊に遭遇しただけである(細道のミニ奥の細道参照)。方角が良いらしい。
というわけで、何がというわけか知らないが、鳴子の宿を出て、白糸の滝を目指した。この白糸の滝へは、まず私たちの宿からR47に出て川渡温泉方面へ右折する。と、直ぐのところ斜め左方に新川渡大橋があるが、そこは直進して川渡温泉(かわたびおんせん)のアーチを潜り温泉街を抜けて左折すると川渡大橋に至る。その橋の直前のタモトを右折して暫く行くと右手に滝がある・・・ことになっている。というのも、この鳴子の宿に来たのは3回目だが、おめおめとこの滝を見逃していたわけではない。橋のタモトを右折して300mほど行くと祥雲寺という古刹への入口があり、その直ぐ先の滝方面にデンと、崩落通行止めの看板と迂回路の指示が立っていて、行けなかったのだった。今回はもうよかろうと思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。看板は道の真中にまだデンと控えていたのだ。
だがしかし、今回は心に期するものがあって、というほど大袈裟ではないが、「横浜からはるばる来たんです。どうか通してくだしゃんせ」とぶつぶついいながら、突破して行こうと言うのである。200mほど突破して行って見ると、こは如何に。滝までは全く何ともなく、普通の農道であったのだ。
滝は<白糸>というには水量も多い段瀑であった。よほど水の涸れた糸のようなときの命名だったろうな、と思ったが、待てよ、温泉地に近く、上手い由緒ある名前が思いつかない時の<窮余の白糸の滝>、かも。
R47を古川方面に進んで、池月でR457へ左折し大栗でR398へ左折北上する。花山湖を右に見て一迫川そいに12kmほど行くと、仙台藩
昨日の最終の滝が碇ヶ関の白糸の滝、今朝が鳴子の白糸の滝、そしてこれから行くのが一迫の白糸の滝の三連チャンである。わざとやったわけも無く、こんなことも確かに珍しい。
細い吊り橋で一迫川を渡りきると、正面にデンと大きな文字で<熊に注意!!> まず、一発の洗礼をくらった。後に
普通の潅木やヒバ林を抜けて暫く行くと、杉木立から突然広い空地に出た。空地の周囲はぐるりと全部杉木立で中側が植え込みのように縁取られていた。背丈の低い草に覆われてはいるものの、数年前までは工場か何かがあったような趣である。あるいは広場か何か。時に取り残されたような、不思議な空間であった。吊り橋の疑問が解けたような気がした。その空地の真中を細々と滝への道が横切っている。空地を横切ってまた杉林に入ると、前方の杉の木の間に目的の滝が見えた。
真っ白な麻の束を幅広に掛けたような滝だ。
前章でも少し述べたが、白糸の滝にも色々形態がある。まずは有名な白糸の滝(
この
観瀑台の眼前に不動滝が落ちている。左手木の間隠れに不動滝と同じ規模の滝が見える女滝沢の女滝であろうか。左手崖の中頃にやや遠く段爆があり、更に遠く小安温泉の温泉宿の傍らからも白い滝が望める、といった具合だ。なぜ余り知られていないのだろう?と思ううち、はっと気が付いた。・・・出来過ぎてる!
観瀑台から不動滝の滝口方面に道があるので辿って見るとこは如何に。道の山側には豊富な水を湛えたコンクリートの水路があって、それが道の下を潜って谷側に繋がり、四角いコンクリの滝口から水が噴き出して、先で不動滝となって落ちているではないか。さすれば他の滝も、我田引水の滝なのじゃなかろうか、と思ったら、たちまち肺の中の空気が溜息とともに漏れて、ヘナヘナ萎む風船みたいになってしまった。もし、元からあったのが、道を作るためにあのようなことになったとしたら、あまりにも滝が可哀想だ。また、もし、小川を山の方から引いてきて滝としたのならば、私には最早、言うべき何物も無い。そうでなく自然との関係で止むを得ない理由があったならば、どうか猛抗議してきて下さい。
私は、男にしてはオリエンテーションがあまり良くない。それでも♀○○よりは数段上だが。滝を巡り、地球を3周するほど走って、最近は見当識もかなり改善してきた。しかし、頑固な癖が一つ直らないため、未だに道に迷い易く難儀している。
頑固な癖とは<後戻りが絶対に嫌い>ということ。「道に迷ったかな?」と思ったら、迷い始めたと思うところに戻って、改めて進むのが鉄則だが、それが出来ないのだ。ほんの1kmほど戻ればよいところでも、「ええい、ままよ」と突き進んでしまう。狭い道は曲がりくねっているので、志に相違して90度違う方向へ行ってしまうことなどごく普通で、360度巡り巡って元のところからちょっと先に出てしまうことすらある。さすがに元のところに出てしまうことは・・・あった、あった。
今度の小安峡から東成瀬の不動滝への道がそうだった。
小安温泉の先の寄合畑というところでR398を右折して羽場橋を渡った。地図には道があったからである。暫く進むと下生内あたりから急に道が細くなってきて、心も細くなってきた。上生内あたりまでは何となく覚えていたが、それから後は分からない。擦れ違いもできないような狭隘路を何度か曲がった。切り返しをしないと後輪が落っこちそうになるところもあった。何が何だか、どっちへ進んでいるのだか、全く分からない。通りかかる人もいない。人家も無い山の中、ただ闇雲に大きな道に出ようと思って彷徨ったが、冷や汗三斗掻いた甲斐もなかった。
物事には始めがあれば、終わりもある。突然人家が現れたと思ったら、途端に道が少し良くなり、学校まで見えた。回り込んで見ると、何と<皆瀬中学校>と門プレートにあるではないか!皆瀬?皆瀬といえば小安峡も皆瀬、皆瀬湖も当然皆瀬、右折して羽場橋を渡ったところも皆瀬。道路地図を見てみたら、R398を右折したところの少し先の、R398と皆瀬川が交差しているところに出てしまったのだった。<皆瀬中学校>はそこにあった。羽場橋からほんの5~6kmほど先のところだ。羽場橋で右折、山越えをしてR342を目指したのだが、次の
後年「皆瀬川に4mの大蛇あらわる」とあったが、大蛇に食われないで良かった?
プリプリしながらR398を北上して行くと、国道の両側に【稲庭うどん】の看板が軒を連ねているところに出た。稲庭うどんってあの稲庭うどん?だったら、丁度時分時だし、腹癒せに稲庭うどんでも食してやろう、って、これこそ怪我の功名というもの。店の名前は確か<佐藤養之助商店>だったか忘れたが、あっさりした味付けで細めの麺ながら、コシがあって美味かった。わざわざお江戸から食べに来る人もあるそうだから、自慢になるな、こりゃ。
私なんぞ全国の滝を経巡っているのだから、さぞかし土地土地の名物もあまた食しておろう、とお考えの方がいたら大きな誤解。以前にも触れたけれど、名物を食している暇があったら、一つでも多くの滝を見る方を選ぶ滝バカなのである。熊野の柿の葉寿司と、え〜と、???中洲の博多らーめん?それくらいしか思い浮かばない。
成瀬村の不動滝はR342を西から入った直ぐのところにある。R342を滝ノ沢方面の「不動滝ほたるの里公園」にある。全落差25mの滝で、ほたるの里の子供の遊戯施設に併存しているので、滝に必要な深山幽谷の趣はない。ただこの滝は滝行に使われていて、信仰の滝でもあり、ロケーションが便利なのが良いのかも知れない。
R342を東に進みながらかう考えた。赤滝に行けば南へ行く、北に流されれば岩手県。2泊3日以上の東北の旅が3回目だと言うのに、まだ、岩手県の滝を見たことがないのだ。これは全国の滝行脚を標榜するものにあって、何処へ出しても恥ずかし・・・いことなのであった。岩手の滝に行くべい。この頃はまだ、ネット検索などやらずに出掛けていたので、アップルの道路地図に頼っていた。地図には
地図の上では鶯宿温泉を過ぎて暫くしたところに滝があるようになっている。気をつけて進んで見たが滝の標識はもとより、気配も感じられない。滝はそれなりの地形にあるものだが、山は遠く開けた田園地帯がつづく。地図のこの辺りという見当を行き来して見たものの、いつかな見付からない。
何度目かに道の下の方に草刈鎌を持ったお婆さんを見掛けたので、近付いて聞いて見た。
「・・・シラン・・・ワザワザ・・・ホドノモンジャ・・・ショガナイ・・・カエッテ・・・」
なんか怒られているような感じで、しかも岩手弁でもごもご話されるのであまり分からなかったけれど、「わざわざ遠くから来て見るほどのもんじゃあないから、やめた方が良い」と仰っているらしかった。しかし、鎌が指し示した方向にあるかも、とお礼を言って、行って見たのがこの滝。お婆さんの傍らを通り抜ける時、「あんなに言ってるのに分からんのかのう」と言うような目で見られているような気がしてしょうがなかった。なにしろ、横浜から来てますもんで、ドウモシイマセン・・・
(4)カタクリの道 2000年5月6日 |
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前日は岩手県の雫石から南下し、夜遅くなって裏磐梯、というか安達太良山の山裾の沼尻温泉に入った。真っ暗で辺鄙な温泉だ。この宿には初めて来たので、国道から沼尻温泉への入口が分からず、右往左往してやっと見付けたら、夜さらに深く、宿に中々辿り着けず、とうとう夕食をくいはぐれて、すきっ腹を抱えて寝るハメになった。ホテルにも近辺にも食堂はなく、会津若松の手前にコンビニがあったが、戻る気力はとうに失せていた。早々に寝る前の湯の香がはらわたに沁みた。
翌日、部屋のカーテンを開けると目の前はスキー場のゲレンデで、皐月の若葉が芽吹いている。その若葉の丘のすぐ向こうに有名な白糸の滝が落ちているとは、そのときは知らなかった。滝は車で5分ほどゲレンデ沿いに上って、徒歩15分ほどで山上の観瀑台に着く。そして、観瀑台から遥か谷間に白い糸のように落ちている滝が見えるはずだった。後に「尾瀬を行く」にその詳細は記しておいたが、この日の早朝に見に行っていたらちょうど朝日が真逆光で、滝は谷間に黒く沈んでいただろう。この滝には後日談があって、2002/10/12の「尾瀬を行く」の中に登場するこの滝訪問は、実はリベンジ訪問だったのだ、と書いてある。
沼尻温泉の白糸の滝には、当「細道の奥の細道3」の翌年、つまり2001年の3月21日にチャレンジしたことがあったのだ。福島県内のみに日帰りで来たので滝紀行はないが、会津、中通り、浜通りと滝巡りした中で、達沢不動滝を訪問した後でこの滝を目指した。達沢不動滝もまだ雪が残っていたが、会津も郡山もその他の滝だきも雪のユの字も無かったので、3月お彼岸の沼尻スキー場の天候を舐めていたことを思い知らされるハメに。ゲレンデはまだ雪が深く、磐梯山から流れてくる雪雲が風花を運んで安達太良山に抜けて行った。
スキー客はチラホラだったが、リフトはカラカラと弛みなく空の座席を運んで行く。リフトを管理をしている人がいたので、滝のことを聞いて見た。
「このリフトを上まで行って別のやつに乗り継ぐと尾根にでるから、そこから歩いて二十分ぐれえだな」
「じゃあ、リフトで行ってリフトで帰って来られるんですね?」
「上っていけるけど、下りは駄目だ」
「え〜〜〜っ、下りは乗れないんですか?」
「下りはスキーを持ってないと乗れないんだよ」
「そんな〜〜〜あ、じゃあ、歩いて降りて来るんですか?この雪のなかを?」
「そうだよ、規則だから」
なんてえ規則だ!わけが分からん!本当だろうか??
今にして思えば、どうもこんな滝見なんぞと、それこそわけの分からん夫婦に山の頂上まで行かせて、遭難でもされたらかなわん、と思って嘘こいたのじゃあなかろうか?確かに雪山というスタイルじゃあないし、足もカンジキもなく、普通のトレッキングシューズの暴走夫婦、と見られた可能性は否定できない。
ゲレンデ横の潅木の中を暫く上って見たが、足元はずぶずぶで、とても行って来れそうも無く、さすがの滝バカも諦め、リベンジを硬く心に誓ったのだった。それが「尾瀬を行く」に結実することとなる。
スゴスゴ帰る私たちを、管理人が遠くからじっと見ていた。
そんなわけで、その時は白糸の滝の存在などは露知らず、心は徳利の形をした銚子ヶ滝の方へ飛んでいたのだった。沼尻から行くと銚子の滝は、母成グリーンラインという有料道路を通って行くと「ふれあい牧場」にでる。有料道路の料金所を出た直ぐ左のところにふれあい牧場に入って行く道があるので、左折して牧場にどんどん入って行く。牧場中央辺りに十字路があるので、そこをまた左折して安達太良山方面へ、つまり母成グリーンライン沿いに(ラインは見えないが)戻って行く感じだ。牧場を抜ける辺りに滝の標識があるので、どんどん奥に分け入って暫く行くと、東屋と大きな滝の看板のあるちょっとした広場にでる。工夫すれば5〜6台は駐車可能で、そこから徒歩40分で滝である。
行けば帰ってこなければならないのは自然の摂理だが、この滝への道は80パーセントが平坦な雑木林で、割合楽なトレッキングだ。楽なトレッキングだと口数が多くなる。口数が多くなれば減らず口も多くなり、当然切った張ったも多くなるが、最初の約束なので本稿では一切割愛せねばならない。というわけで自動的に芭蕉号のところに戻ってきたわけだが・・・何か変だぞ。ああ、滝の紹介を忘れていたわい。銚子ヶ滝とは良くぞ言った。細い滝口から落ちて来る水が、途中の突き出た岩に当って砕けて大きく双方に広がり、滝壷までストレートに落ちている。まさに銚子のような滝である。銚子の滝は全国には結構数が多く、私が行っただけでも、青森県奥入瀬、
先にも触れたように、近くに達沢不動滝や白糸の滝が直ぐ傍にあることなど露知らなかったものだから、道路地図に克明に記してある遠藤が滝に行くことにした。滝は
遠藤ヶ滝は駐車場から杉田川を渡り、遠藤ヶ滝不動尊(文覚上人=遠藤盛遠が不動尊の正体を知ろうとしたのに因む、赤不動)への参道を通って不動尊の脇の遊歩道を行くと再び杉田川に出る。橋を渡ると、・・・・・ここではあまり書きたくないが・・・・・一面ずっとカタクリが続いている。5月なので勿論花は咲いていないが、見事な群生地だ。1km近く続いているだろうか。カタクリの群生地は何箇所か見たが、いずれも植栽のものだった。ここは植栽ほど密ではないが、自生だけに尚更、一斉に咲いたらさぞかし見事であろうと思わせる。咲き揃った時にまた来て見たいが、この地では雪解けの直後であろうと思った。・・・と、こんなことを書くと東京辺りの馬鹿業者が嗅ぎ付けて、盗掘にやってくる危険性がある。だから書くのを躊躇うのだが、そんなことをすれば、必ずや、不動尊や文覚上人の天罰が下るであろう。ここに警告する。 カタクリの群生地を抜けると、多少、道が荒れてくる。この杉田川には48の滝があるというが、途中ではどうと言うことも無い小滝が一つあっただけだった。どうと言うことも無い?あっただけ?ハァ?・・・後で不明を恥じることとなる。
遠藤ヶ滝は滝である。以上。
私の記述では落差6m、とある。この写真では到底そんなにあるようには見えないが、他の人の撮影したのを見ると、滝行者が二枚ある岩の、中側の岩の下にスッポリと入っているところからすると、少なくとも大人の2倍以上はありそうだ。私の分類では辛うじて「滝」に入るものだ。不動尊+滝行の滝として有名なのだろうか。
訪問前によく検討もしないで、道路地図に記載されていることのみを頼りに行った私が悪いのだが、多少トボトボと仏頂面で――こういうところがいけない――帰途に付いたとき、往路の<どうと言うことも無い小滝が一つあっただけ>の所を通りかかった。あっ、結構な滝じゃないか!丸い岩の上に、水流が簾のように末広がりで掛かっており、上の方の小さな窪みと石が目のようになって、<ど根性ガエル>が座っているような滝だ。めっけもん、もうけもんで、スローシャッターで上手く取れるよう、祈るような気持ちで撮影したが、これ、どうだろう?
こういう“めっけもん”があると、途端ににこにこ笑みがこぼれてどうしようもなくなってしまうのが滝ヤラレの真骨頂。ついでに早く写真の出来上がりを見たくなって、普通私が昼頃引き上げるなんて考えられないのだが、そそくさと東北自動車道を南下したのだった。
[了]