対の遺伝子
- - - 3. 眠りに落ちるその前に
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彬が堅物で真面目だなんて、誰が言ったんだろう。
少なくとも私の前での彼は、そうではなかった。

「堅物で真面目だったら、結婚するまで貞操は守るんじゃないかなぁ?」
「……それは無理だ」
「どうして?」
「……男の本能だから」

一人暮らしの彼のマンションで、納得いかないというように眉を寄せると、彬は笑って私の背中を撫でた。
優しい動き―――――宥めるみたい。
男の子以上に男らしかった私を、昔から彼だけがこうして守ろうとしてくれていた。

大切な宝物を慈しむみたいに。
それに安心してしまう私が確かにここにいて。
直に伝わる心音が、眠りを誘う。

「眠い?笑」
「……ん」
「いいよ、眠っても」

背中を撫でていた手がそっと動いて、腕枕をするように抱き寄せ、今度は髪を撫でる。
どこまでも優しい手。
私はその手が、とてもとても大好きで。

「彬……」
「うん?」
「起こして……ね」
「わかってる。起こさなかったら、俺が有に殺されるしな」

過保護な双子の兄の反応を思い出したのだろう。彬は小さく笑った。
いつも難しい顔をして、どこか社交辞令的な笑いしか見せない彼が、私の前でだけはいつもこんな柔らかな笑顔でいてくれるのが嬉しい。

この時間がいつまでも続けばいいのにと。
眠りに落ちる瞬間に、私はふっと願った。