対の遺伝子
- - - 4. 法定速度120キロ
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オレの双子の妹はかなりなスピード狂である。
何せ昔から自転車のブレーキは不要、と豪語していたくらいだから、よっぽどだ。
そんな笑はもちろん渋滞、というものが大嫌いだった。

「有……一体いつになったら着くのよ」
「仕方ねえだろ、渋滞してんだから」
「全く……どこのどいつが事故ってんのよ。事故るくらいなら車なんて乗るんじゃないっつの」

ブツブツと助手席で文句を言う笑に、オレのイライラもMAXだ。
大体何だってオレは、妹とディズニーランドへなんて行く羽目になってるんだ?
もしも横にいるのが、笑ではなく恋人の由紀だったなら、渋滞の間も話は尽きず、こんなにイライラすることもなかっただろうに。

彬……由紀……なんでお前達は現地直行なんだ。
いやわかってるけどさ。
夕方からのパスポートがたまたま4枚手に入ったからって、気楽な大学院生のオレ達と違って、彬と由紀には仕事があるってことくらい。
わかりすぎる位にわかってるんだけどさ。

……ここまで笑の機嫌が悪くなるなんて、オレだって想定の範囲外だった。
こんなの横に乗せて、いつも彬はよく平気でいられるものだと、オレは彬の忍耐力に乾杯したい気分に襲われる。

「湾岸とか、東関道なんて、飛ばすためにある道だと思わない?」
「……お前の認識は間違ってる」
「だって片一方は海沿いでしょ?もう一方は直線の一本道でしょ?そこをまさか法廷速度で走るバカいないでしょ?」
「お前、法廷速度って何キロだか知ってんのか?」
「120キロ」
「100キロだよ!」

何いきなり20キロもオーバーしてんだよ。
昔っから……なんでコイツこんなに男前なんだろう。
車の免許もオレより取るのは早かったし、大型バイクだの小型船舶だの、スピード物の免許は全部持ってる辺りが恐ろしいぞ。

「でもお前さ、彬と出かける時は助手席だよな?」
「うん」
「なんで?自分で運転したいんじゃねえの?」
「……怒られたから」
「は?」

怒られた?
あの笑一筋、浮気なんて絶対考えられないくらいにお前に惚れてる彬が、怒ったって?

「免許取立ての頃ね……ほら私達って彬より誕生日早いから、免許取れたのも私の方が先だったんだけどね」
「うん」
「一回彬を助手席に乗せて、ドライブに行ったの。箱根に」

……箱根。
お前……またそんな初心者向きじゃないところに。

「面白かったんだよねえ……こう、いかにスピードを落とさずにカーブを完璧に曲がりきるかってのがねえ」
「お前、走り屋かよ」
「違うけど、ちょっと夢中になっちゃって、横に乗ってた彬のこと、すっかり忘れちゃってさぁ」

気付いたら、彬は顔面蒼白になっていて。
途中で立ち寄った店のトイレに駆け込んで行ったのだという。

―――――彬……可哀相に。

「それ以来、どんなに運転するって言っても許してくれない」
「……あ、そう」
「もぉ、腕がなまっちゃう!なまっちゃう!」

よかった。
……本当によかった、オレの車、オートマで。
笑がオートマ嫌いのマニュアル派で本当によかった。
もしもこの車がマニュアルだったなら、今頃コイツは路肩をとんでもないスピードでぶっとばしかねない。
そして捕まって、彬に怒られるのはオレなんだ。

不機嫌そうに眉を歪めている妹の向こうに、夢の国が見えてくる。
出口の表示は待ったかいあって、もう目の前だ。

例え着いても、この妹はジェットコースターにしか乗らないだろう。
そんな妹のお守りは今日だけは幼馴染の彼に任せて、俺は彼女と一緒にゆっくりショーでも見ていようか。

……しかし、法定速度は守れよな、笑。