対の遺伝子
- - - 10. 淋しい気持ち
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「なんだ?」
「……別に」

大学も4年になると、就職や進学先が決まってしまえば暇にもなる。
彬はいち早く就職先を決めた。来年からは元々好きな機械工学のエンジニアへの道を踏み出す。
由紀は商社のOLになることが決まっている。
そしてオレと笑は居残り、つまり大学院への進学組だ。

「就職するってことはさ、イロイロと考えてるんじゃないのかなって思って」
「……イロイロって?」
「お前真面目だから。笑のこととか」
「……」
「なんだその沈黙」
「……いや、意外とするどいなって思って」

彬は苦笑する。
鋭いってなんだよ。やっぱりそういうことなのか。

「就職して、落ち着いたら……プロポーズ、するつもりだよ」
「……げ」
「げって」
「だって笑はまだ学生なんだぞ?」
「それは分かってるけど、大学院ならそんなに問題もないだろ?」
「しゅ、就職したばっかりで二人で生活できるのかよ!」
「俺の就職する会社、技術職だから給料もそれなりだし」
「……で!でも!」
「有」

慌てる俺に、彬は真剣な顔を向けてきた。

「俺は……本当に笑のことが好きなんだ」
「……」
「絶対に幸せにする……約束するから」

そうまで言われて反対できる人間がいるだろうか。
何故だろう……オレはすごく、すごく泣きたい気持ちになった。
今度こそ完全に―――――笑が彬のものになってしまう気がして、淋しかった。

きっとどこかでオレは焦っているんだと思う。
進学はオレが自分で決めたことだけれど、由紀が先に社会に出てしまうことに不安がないわけじゃない。
彬の自信に満ちたその姿が、それを煽っている気がした。

「有」

苦笑した彬に、オレは返事をすることができなかった。