対の遺伝子
- - - 11. わかっていたはず
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私には―――――わかっていたはず。


* * * * *


「彬」

そう、いつも彬はここにいた。
1年に約2回、なにもかもから隠れるように、ただそこにうずくまっていた。

「……笑」

見つけるのは、私の役目。
そうするのが当然だと思っていたし、そうしなくちゃいけないとも思っていた。

だから黙って手を伸ばす。
意外に柔らかな、その髪を撫でて、彬の身体を強く抱きしめる。

彬の死んだお母さんには、もうできないこと。
彬のお父さんが、決してしてくれないこと。

いつもどこか愛情に飢えている彼を精一杯抱きしめて、受け止める。
それが私の役目だと、私の心の深い深い何処かが、本能的に知っていた。

「笑……」

名前を呼ぶ―――――弱々しい声も全て。

私がなってあげるよ。
彬の唯一無二の―――――絶対の存在に。
その愛情の全てを向けられる、存在になってあげるよ。

そうすれば、きっと彬は生きられる。
私という存在さえあれば、彼は生きることができる。
お父さんの愛情がなくても、お母さんを失っても、この先誰を失っても。

私がいれば―――――生きていける。


* * * * *


だから、この手を伸ばす。
彼の身体を抱きしめる。

私という存在が―――――彼の全てになる日まで。