対の遺伝子
- - - 14. 天上の言の葉
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「ああ、折れたなって思ったんだよね」

自分のベットに座って、肩からかけた布で腕を吊った笑は、何も気にしていないかのように笑った。
右腕骨折、全治一ヶ月。
痛いはずなのに絶対に泣かない、強情で頑固な彼女に、俺は顔を顰めた。

「何で彬の方が泣きそうなのよ」
「……わからない」
「彬はいつもそうだね。怪我をしたのは、私だよ?」

笑はそう言って俺の頬に触れる。
いつも元気で、動き回っている君が好きだけど……大きな怪我をされることが一番つらい。
―――――君を、失ってしまったら。
その恐怖だけはきっと、永遠に俺の中から消えることはないだろう。

頬に触れる手を握り締めて、俺は笑の肩に顔を埋めた。
この震えも、怯えも……全ては君を失うことの恐怖からくるものだと、君はわかってくれるだろうか。

「やっぱり竹箒でチャンバラは良くなかったかなぁ」
「……永遠に禁止だ」
「高校生になってからやってみると、意外と新鮮だったりしたんだよ?」
「……とにかく禁止だ」

この腕の中におとなしく留まってくれるような彼女ではないとわかっているけれど。
本気で何処かに閉じ込めてしまいたい衝動に駆られた。

「ずっと……抱きしめていられたらいいのに」
「彬?」
「そうすれば、笑が傷つくこともないのに」

笑は知っている。
俺が、自分なしでは生きられないことを、ちゃんと知っているのだ。

―――――だからこそ、彼女はそう言うのだろう。

「彬」

ふわりと笑が微笑んだのが、気配でわかった。

「それはきっと、私じゃなくなるよ?」

分かっているよ。
俺はそして、そんな笑を望んでいない。
これはただ俺の醜い独占欲と、どうしようもないほどの執着だ。





「でもね」





欲深い。
―――――ああ、なんて……あさましい、こころ。





「そんな彬でも、私は大好きだよ」





それを救うのは―――――君の、天上の言の葉。
俺は湧き上がる想いのままに、小さな彼女の身体を強く抱きしめた。