対の遺伝子
- - - 17. 過激な恋文
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いつものようにオレと、双子の妹の笑、幼馴染の彬と三人で登校したある日のこと。
自分の下駄箱を開けた笑が、驚いたような顔で固まった。

「……笑?」

彬が怪訝そうな顔で近付くと、笑は下駄箱の中から一通の手紙を取り出した。

「またか……」
「なんだそれ?ラブレターか?」

オレがからかい半分に聞くと、笑は心底イヤそうな顔をする。

「そうよ」
「えっっ!!」

オレ達の中で一番、ラブレターを貰い慣れているであろう彬が、驚きの声を上げた。
―――――そりゃそうだ。
彬は昔から笑に片想い。未だに告白できない純情一途な少年なのだから。

「お前にラブレターね……物好きな男もいるもんだな」
「男じゃないわよ」
「そうか、男じゃ……」



―――――へ?



「女よ」



……女!?



「今月に入ってから、これでちょうど10通目」
「……女からか?」
「そう」

私のこと、なんだと思ってんのかしら、と笑はぶちぶちと文句を言っている。
しかし女からラブレターなんて貰ってたのか。我が妹ながら先行き心配だぞ、お兄ちゃんは。
彬、お前もあからさまにほっとするなよ。

「でも女からのラブレターなんて、憧れてます程度だろ?」
「そう思う?」

笑は顔をひくひくさせながら、黙ってオレにその手紙を差し出した。
仮にもラブレターをオレが読んでもいいものかどうか躊躇したが、好奇心の方が勝ってしまう。

白地に花柄の便箋、そこに書かれた丸い文字を見れば、その差出人が女であることは容易に想像できた。
しかし……その内容は可愛いものではなかった。

「……笑」
「私ねえ……最近本気で貞操の危機を感じるわ」
「……これ、マジで女から?」
「そうよ」

なんだ!この卑猥な妄想の篭った文章は!
そんなこと考えるのは、ここにいる彬だけで充分だ!と力説しようとしたら、後ろから彬の本気の蹴りが入った。

「私だってさすがに女とは嫌だなぁ」
「論点が違うだろ!」
「想像されてる私の身体ってどこだと思う?この鍛えられた足とか、腕かな」

そう言って笑が腕を曲げると、細いくせに生意気にも筋肉の線が浮き出る。
いや違う。
普通欲情する人間は、お前の筋肉なんて見てないぞ!
彬ならいざ知らず!と力説しようとしたら、また彬から本気の蹴りを入れられた。
なんなんだよ、もう。

「だって胸はまだ成長途中だし、ねえ?」
「……え、笑……」

胸に手を置いて、彬を見るんじゃない。
可哀想に……猿みたいな赤ら顔になっているじゃないか。

「まぁどっちにしても、返り討ちにしてやるけどね。女子に負ける気はさらさらしないし」
「で、でも笑……危なくないか?」
「あはは、大丈夫。もう過去に5人ほど撃退してるから」

―――――さらっと。
本当に普通のことのように事実を語った笑に、親友は固まった。
彬……現実を見ようぜ。


* * * * *


思いっきりその時は、彬に同情していたけれど。
その5人の中に、自分が密かに惚れていた5組の佐々木がいたことを、オレは後になって知る。

好きな子は、オレじゃなくて―――――妹に惚れたんだ。
その事実を知った直後に、オレはショックで熱を出して5日間寝込むことになった。