対の遺伝子
- - - 22. ネーミングセンス
[ 21. 誤解、ヤキモチ、青いアザ | 対の遺伝子Top | 23. だからあなたが大嫌い ]

桐原家、つまり笑と有の家には一匹の犬がいる。
名前を『じゅうぞう』と言う。

「そう言えば、なんでじゅうぞうなんだ?」

じゅうぞうはバーニーズマウンテンドッグという犬種で、かなりの大型犬だ。
だがもうかなりの年寄り犬なので、最近は寝ている時間が多いという。
頭を撫でてやると、気持ちがよさそうに目を閉じるじゅうぞうに微笑みながら、俺は隣にいた有に問いかけてみた。

「あー、名付け親は笑だぞ」
「へぇ」
「理由はバカバカしいから、あんまり聞かない方がいいぞ」
「?」

有が苦笑するのに、俺は首を傾げた。
しかし俺の向かいでお茶を飲んでいた笑は、不機嫌そうに眉を歪める。

「バカバカしくなんてないよ」
「いいや、かなりバカバカしいだろ」
「何言ってんの!あんな有名な人から貰った、最高の名前だよ!」

有名な人?
『じゅうぞう』という名前の有名人を、俺は頭をフル回転させて考えてみる。
……ああ、そう言えば映画監督にそんな人がいたな。

そう思っていた俺にまるで気付かなかったように、笑は拳を握って立ち上がった。





「沖田艦長は、男の中の男なの!」
「ほら!『地球か……何もかもみな懐かしい』って、言ってみ!」





桐原家には一匹の犬がいる。
名前は『じゅうぞう』……漢字で書くと『十三』。
宇宙戦艦●マトに出てきた艦長の名前だ。

主人にその有名な台詞を言えと命令され、戸惑ったようなその十三の顔を見て。
俺は笑が自他共に認めるジジコンだったことを、その時初めて思い出したのだった