「鐘の鳴る丘」とチャリンコ

「南から南から」と柳亭痴楽
 「南から南から」を歌ったりしますと、四代目柳亭痴楽の<ラブレター>という新作落語を思い出します。「南から南から」は軍歌ではありませんが、昭和18年1月といえば日本軍がガダルカナル島から撤退して、戦況も一変した頃で、普通の流行歌であろうとしても検閲で許されず、このような歌詞になっています。その歌を柳亭痴楽師匠は、戦後まもなく自身の新作落語<ラブレター>に、明るく巧みに取り入れていました。古典落語ではなくても、”新作”といわれる落語でも三遊亭円朝のように後の世に残る名作もあります。新作落語にも、一代の落語で終らせては惜しいものが沢山ありますが、柳亭痴楽の新作落語はまさに後世に残したいものです。(柳亭小痴楽改め五代目柳亭痴楽さん、よろしく)
 柳亭痴楽の新作落語は、枕に<痴楽青春日記>とか<痴楽綴方狂室>などを置いています。小林旭の「恋の山手線」の原詞といわれる<恋の山手線>を始め色々ある中で一例を挙げますと・・・(記憶に依存していますので本物と多少相違しています)

  「破壊された顔の所有者と言われます柳亭痴楽でございますが・・・
    ♪東京娘の言うことにゃ サノ言うことにゃ
     柳亭痴楽はいい男 鶴田浩二や錦之助
     あれより ぐ〜〜〜んといい男
     痴楽とならば何処までも 水平線の果てまでも
     トコ厭やせぬ テナことを夢に見て しみじみ泣いた夜ばかり
     私も人の子おてもやん ピーチクパーチク喋れども
     クルクルパーが仇となり 失恋ばかりで夢去りぬ
     ここはトルコの街外れ 男のもてるウスクダラ
     右も左も女の子 ベサメムーチョでアイラブユー
     ホイ来たチョーさん待ってたと グッと彼女を抱き締めりゃ
     とたんにポロポロ籾の殻 枕を抱いていたのです ♪
                       ・・・・・痴楽青春日記より」

熊さん・八っつあん「このごろマーちゃんトンとお見限りだなー。いい女(ひと)でもできたんじゃあないか?」
マー「(【南から南から】の節で) ♪彼女から〜彼女から〜 飛んで来た来た ラブレター 嬉しそな〜 楽しそな〜 ことが沢山書いてある♪」
熊・八「おっ、噂をすれば影!マーちゃんだ!なんか手に手紙を持ってるぞ。お〜〜いマーちゃんマーちゃん」
マー「おや、熊と八ではないかえ」
熊・八「なに気取ってやんだ!その手に持ってるのはなんだい?彼女からのラブレターかい?」
マー「へっ、へっ、へっ。女にゃ縁の無い下々の者には関係なし」
熊・八「何言ってんだ!見せろよ!」
マー「君らみたいな愚者には、彼女の手紙は難しくて読めないんだよ」
熊・八「見せろーっ!」 と取り上げますてえと、
マー「アアッ、止めて!」
熊・八「なになに?フム。 全部平仮名だね。こんなものが難しいものかよ・・・??ん?◆かれいにももひきあげますわ◆ 何だこりゃ?最初から、カレイ(鰈)に股引を上げちゃうのかい?」
マー「だから駄目だと言ったんだ!それは、◇彼氏に申し上げますわ◇ ってんだ。大事なとこじゃないか」
熊・八「彼氏に申し上げますわ、だって?どう読んでも、カレイに股引上げますわ、だね。そこでっと、◆こなだわ こなだわ◆ マーちゃん、彼女、粉屋の娘さんかい?粉だわ、粉だわって言ってるよ」
マー「それは、◇こないだは こないだは◇、って言うんだ。”い”を抜かしちゃったんだよ」
熊・八「こないだは、か。 ◆はながたけさんくだりて◆ これは読めるぞ! 腹が竹さん下りて、って、横丁の竹さん、腹下ししちゃったんだ!」
マー「違うよ! ◇バナナたくさん下さりて◇ だ」
熊・八「バナナたくさん下さりて、か。 ◆べつだんへそなめたよ◆、さあ、わからねえ。臍舐めるって?」
マー「◇仏壇へ供えたよ◇」
熊・八「◆こんとにちょてとてととて◆」
マー「◇今度の日曜手に手を取って◇」
熊・八「◆あべこべぴこにこいこよ◆ 駄目だ、これは」
マー「彼女カタカナも苦手なんだ。 ◇アベックでピクニックに行こうよ◇
熊・八「◆なきまめこりさとあぱんもかてきてね◆」
マー「◇南京豆、氷砂糖、あんぱんも買ってきてね◇」
熊・八「◆わたしあなたかんじょうよ!◆、マーちゃんえらいことだ。彼女に金を借りてたんだ」
マー「違わい!◇私は貴方の彼女よ!◇、じゃないか」
熊・八「◆あなたわはたけのたにしだわ◆」 はははっ、マーちゃん畑の田螺かい?」
マー「ウウウッ、◇貴方は私の彼氏だわ◇」
熊・八「◆なぜかあなたがだい奴よ◆」おっ、始めての漢字だ!でも”だい奴”って?」
マー「うわ〜〜ん。一番大切なとこで、奴と好を間違っちゃったんだ」

                               お後がよろしいようで・・・

   

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