西遊記2                                 4 

 (4) 5月6日 帰路

 この西遊の天候は、3日出発した時は大雨で、おまけに途中皐月の雪化粧まで見て前途多難を思わせたが、実際に滝見を開始する段になると空はパッと晴れ上がり、以後滝見をしている間は多少雲が出た程度で、全く降らなかった。4日の夜はホテルに着いた途端に降り始めたのに翌朝出発前に上がってしまう、というオマケ付きである。旅の最終日の朝も晴れ上がって空あくまでも青く、明石海峡大橋が白く眩しく輝くのを見て、俺って本当に天晴れ男だなー、タックどんの愛媛も晴れとったしなー、なんぞと思いつつ運転していたら、助手席から「私って本当に晴れ女なのねぇ」と呟く声が聞こえた。てやんでぃ、俺ぁ一人で行っとるときも降られたことぁ無いわい、と思ったがここは男の威厳を以って我慢をした。(実は降りそうも無いのを見極めて出掛けるだけのことである)
 この日は言わば帰るだけ。ただ真っ直ぐ横浜に帰っても芸が無いので、新神戸駅裏の布引の滝、箕面市の箕面の滝と、出来たら往路に果たせなかった岐阜県加子母村の高樽の滝でも寄られたら、今回の滝見行も30本を越え、万々才である。
 布引の滝は百選ではあるがあまり人気(にんき)が無く、本を見てもサイトを見てもアプローチまでは記してない。取り敢えず新神戸駅前に出て、何とか新幹線を越えて反対側に行って、何とか北側を探し回れば何とかなるだろう、と思ったが何ともならなかった。駅裏の細い道には駐車の余地は無い。突き当たりのお寺の境内はかなり広かったが、怖い顔のお爺さんが後手に、辺りを見回している。当面、対象はこちとらの車だけなので見てみぬ振りをしているようだ。到底、停めに入れる雰囲気でない。それでも仕方がないのでソロソロと境内に入って見たら、案の定そのコワモテの爺さんがツカツカと寄ってきたので、つい「本堂はどちらですか?」などと聞いてしまった。ミエミエのバレバレだったのですごく恥かしかった。それでも一応参詣に来たような顔をして、庭や本堂をシカツメらしい顔をして見て、賽銭を上げてソソクサとその寺を後にした。もっともらしく参詣するようなお寺ではないのです。その爺さんは我々の行動をジ−ッと見ていたし、車の後姿を見送っていた。けったいなやっちゃな、と思っていたかも知れないし、もしかしたら、親切に駐車させてくれて、布引の滝への行き方も教えてくれたのかも知れない。今となっては分からないが「布引の滝へ行きたいのですが、ここに停めさせて頂いていいですか?」と一言聞けば、いいものはいい、駄目なものは駄目で済むことなのに、それが出来ない夫婦なのだ、私たちは・・・
 新神戸駅前に戻って、さてどうすべえ、となった。車の流れの中で停まっている訳にもいかないので、取り敢えず駅前駐車場に入れて対策を立てることとした。20分間無料である(過ぎると20分ごとに340円となる)ので、時間一杯歩き回って探そうか、と、駐車場からの横断歩道を渡って駅東寄りの地下荷物用通路みたいな暗いところに入った途端、[←布引の滝入口]という白い看板が目に入ったではないか!結局これが極く普通のルートだったのだ。あとは \340@20min との闘いである、と思ったが、どっこいそうは問屋が卸さなかった。ここで今までにない体験をすることとなった。
 近代の粋を集めた新神戸駅の裏手なので、チャッと行ってチャッと帰れるものとばかり思っていたのに、毛虫シャワーの洗礼を受けヒドイことになってしまった。この布引の滝公園は、一ヶ月ほど前は桜が満開でさぞ美しかったと思わせる。その宴の後ではないが、ビッシリ並んだ桜の木からビッシリとケム公のスダレが下がっていて除ける余地がないのである。雨を除けることが出来ますか?
 朝日とともに一斉にブラ下がって来たケム公は、銀色の糸を光らせながら風に揺れている。不思議なことに、糸を引いて来る高さはまちまちなのに、地上よりの高さは大体人間の胸辺りである。だから始末におえない。すでに何人も通ったはずなのに後から後からツーッとブラ下がって来て往く手を塞いで、連れ合いの足をすくませる。キャーキャーと悲鳴があがる。
 私だって毛虫はでー嫌れーだが、仕方がないので三脚の足を一本伸ばし、切り込み隊長よろしくケムスダレを横に払いながら道を開け、連れ合いが兵卒のように続く。一箇所を通り抜けるだけならいいのだが、遊歩道沿いがずっと桜並木で、ケムスダレもずっと続く。足許やフェンスの上はケム公のオンパレードである。大きいのや小さいのがザワザワ蠢いて(そうこの字→蟲)いる中を突き進む。56匹ほど踏み潰したに相違ない。ヒルも気色悪いけど、毛虫もこれだけ集まるとキモチワルイよ〜。三脚で跳ね飛ばされたのが反動で還って来て、帽子の下や髪の毛の中に潜り込んで来る。
 やっと布引の滝・雌滝が見えて来ると頭上の木も疎らとなって、ホッと一息。互いの体を検めると案の定、連れ合いの髪や背中を何匹も動いておる。全身くまなくあらため、木の葉で掬い取ってやった。私にはかなりでかいケムンパスみたいなのが張り付いていて、なかなか剥がれなかった。これがやっと雌滝なのである。おんなじ思いをして布引の滝・雄滝まで行かなければならない。行ったら帰って来なくてはならない。ウンザリした。しかし滝を見たい気持ちの方が遥かに勝っていて、途中で引き返そうなんぞとこれっぽっちも思わなかったのは、滝ヤラレの面目躍如たるものがある。コッホン。
 布引の滝は、んーと、ケムばっか気になっとってどうも印象が薄い。雄滝と雌滝とあって、雄滝は滝壷の広い二段で・・・

布引の滝・雌
雌滝・下部
布引の滝・雄
雄滝・中部

 吹田("ふきた"と書いて"すいた"と読むのも珍しい、あっ、吹奏楽はすいそうがくか)ICを出て西の方に戻ると箕面市がある。箕面市の市名自体が、箕の面(おもて)のような滝、箕面の滝から名前を採ったというだけあって、箕面の滝に対する思い入れも強く、それだけ開発もしてしまうわけだ。西進しても平野、平野、平野だったが突然六甲山系の東端に突き当たり一挙に山中に入り込んでゆく。道中、突然茶色のものが眼前を掠めた。猿だ! スピードを緩めて見ると、道路のそこかしこに猿の群れがいる。道脇に座って自動車をネメ付けているボス猿みたいなのが居る。停まった車のウインドウから猿のお尻が見える。餌でもやっているのだろう。道路脇で、幼児に餌をやらせようとしているバカ親もいる。まことに危ない。日光の猿害の酷さをまだ知らないのであろう。日光もあんなになるとは思っても見なかったのだろうが、自然をナメたバチがあったったのだ。同じようなことは、ブラックバスを放流して固有の生態系を破壊した、バカ釣り人(真の犯罪者だよこいつらは)にも言える。ブルーギルの問題もあるけどね。群猿のいる滝といえば、日光の華厳の滝、岡山の神庭の滝、そしてこの箕面の滝だが、箕面の場合は今のうちに何とかすれば何とかなると思う。
 箕面の滝は誰でも知っとるということたろうか、府道沿いに看板らしきものは無かった。駐車場があって人も沢山居た所があったので「ここなのかなー?」と思いつつ看板を探したが見付からず、通り過ぎてしまった(結果的に矢張りそうだったが・・・)。暫く行って引き帰して来たが、遠来の旅人のためにももう少し親切な標示をして貰いたい。滝は最初に想像していたほどではなかったが市民の憩いの場として大いに開発されている。駐車場から府道を横切っていくとトンネルがあるが、車道のトンネル脇に歩行者専用のトンネルがあって、入口上部にやっと[箕面の滝入口]と書いてあった。こんなもんで道から分かるけー! 道からかなり谷底へ下っていくと茶店が並んでいてその奥に滝はヒッソリと落ちていた。滝のコレクターとしては帰路に寄るには格好のものであった。

箕面の滝
箕面の滝2
箕面の滝・滝壷

  箕面の滝を出たのが12:30。岐阜の高樽の滝には16:00頃までには着けるだろうから滝ヤラレとしては当然行く積りでいた。ところが小牧JC(東名と中央道の分岐点)辺りで連日の疲れからか猛烈に眠くなってきて、後は憶えていない・・・     [了]

 (1) 出発と岐阜の滝  (2) 四国路へ   (3) 愛媛はあるか