この「上海帰りのリル」のなかで、主役のリルがどういう女性であるか、が一番の問題です。この歌が<昭和26年>であること、<上海から帰った>というから多分日本女性で戦時中は中国の上海で暮らしていて終戦と同時に民間人として復員した、<上海の夢の四馬路>(「夜霧のブルース参照」)に居た、ということを合わせ考えると、この女性は戦前日本から大陸に渡った<高級娼婦>で、この男性とは上海租界の娼館で逢瀬を重ねるうち同棲生活。商売を離れて相思相愛となってしまった、いわば<花魁の恋>。男性は先に霧の中で涙の帰国をし、以後女性の消息は絶たれた、というのがこの歌の始まる前の物語でしょう。<暗き運命は二人で分けて 共に暮らそう昔のままで>というあたりで物語が明確になっています。小林旭の歌う「昔の名前で出ています」の男女逆バージョンですね。
もちろん東条寿三郎の脳裏には戦前の米映画<フットライト・パレード>の主題歌「上海リル」があったのは間違いないところでしょうが・・・
「上海帰りのリル」と上海租界 Photo, JAVA & MIDI arranged by
Hosomichi